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読んだ本の感想をつづったブログです。



玉木 俊明(著)
日経プレミアシリーズ
2020年09月10日


人々を引き付けるダイヤモンドと、それに関わってきた人々の歴史を解説している作品。

中世くらいまではインドでしかダイヤモンドは発掘されておらず、ヨーロッパとは地中海で採取されたサンゴと交換する形で交易がなされてきたこと、こうした交易にはセファルディム(イベリア半島出身のユダヤ人)やアルメニア人の商人が関わることが多かった話などがなされている。

そして大航海時代になるとポルトガル人が喜望峰周りでインドへの航路を開いてダイヤモンド貿易に入ってきたこと、アシュケナージ(東欧出身のユダヤ人)がアントウェルペン(アントワープ)やアムステルダムでダイヤモンドの貿易や加工に携わるようになった話、ブラジルでもダイヤモンドが発見されてポルトガルの国営事業になった話と続く。

ここから帝国主義時代に入り、南アフリカなどでもダイヤモンドが発見されると、イギリス人のセシル・ローズが現代に続くデビアス社を結成し、大英帝国の軍隊と組んで各地を侵略してダイヤモンドのカルテルを作り上げ、小売価格が一定以上になる仕組みにしている話となり、ダイヤモンドが必需品ではなくぜいたく品だから各国からこの時期はまだ潰されなかったのかもしれないと思った。

その後はソ連領のシベリアでもダイヤモンドが大量に産出されるようになったり、GMが合成ダイヤモンドの精製に成功したこと、ソ連崩壊でロシアの企業がデビアスの指示を聞かなくなったこと、アメリカ政府から反トラスト法で罰金を科されたことなどから、デビアス社も価格管理ができなくなった話に続いている。

アフリカのように紛争が多い地域で産出されがちということで、紛争ダイヤモンドと呼ばれる闇ルートで流通するダイヤモンドが多いことも書かれている。

ダイヤモンドは炭素でできていて合成も可能、思っていた以上に少ないわけでもないということで、あくまで美しさから貴重・高価なものでなければならないという考えから、このような扱いを受けてきた物質なのだということが伝わってきた。
欲望や人が美しいと感じるという要素を外してしまえば、硬さから工業に必要ということ以外はちょっと変わった堅い石ころということなのかもしれない。





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玉木 俊明 (著)
河出書房新社 (2023/8/29)


古代文明の時代から現代にかけ、遠距離の地域をつないださまざまな中間商人たちが果たしてきた役割を解説している作品で、11章から構成されている。

セファルディムやアルメニア人のように著者の他の作品で読んだ話もあるが、ローマと漢の間で大儲けしたパルティアの商人や唐の政治にも影響力があったソグド商人、日本企業の海外での発展を支えた領事と総合商社、大英帝国とタックスヘイブンの結びつきなど、著者の作品であまり読んだ記憶がない話も多く収録されている。

パルティアは塩野七生著『ローマ人の物語』シリーズでローマ帝国が何度も苦戦を強いられる強敵として描かれているが、パルティアから見てもローマはかなりの脅威で、ローマと漢が直接取引をして強大化しないように努めていた話が印象に残る。

世界史が専門の著者の作品ではあまり読んだことがない、日本の総合商社の話は特に印象に残る。

開国して列強から不平等条約を結ばされた状態から輸出を増やさなければならない事情から、まずは各国に置かれた領事が地域ごとの情報を収集して日本企業に提供を始めた話、次いで三井物産や三菱商事のような総合商社がさまざまな取引の仲介を続けた話が書かれている。

総合商社は近年では投資銀行のようなコミッション収入だけにとどまらず、事業会社への出資や運営まで手を広げてきたことなどが書かれていて、他国では少ない日本的な業態なのだろうと感じた。

各章がコンパクトにまとまった形で書かれていて読みやすく、興味深く読むことができた。





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玉木 俊明 (著)
東洋経済新報社 (2022/9/30)


近代ヨーロッパの経済史を専門とする歴史学者による、これまでの著作の内容を深化して地域や時間軸を広く取った形での物流や経済についての歴史を語っている作品。

タイトルに手数料とあるが、手数料の話は近代のイギリスの話以外ではそれほど多く言及されていない。

これまでの著作からは『逆転の世界史 覇権争奪の5000年』『迫害された移民の経済史 : ヨーロッパ覇権、影の主役』の2冊から採られた話が多く、海運への無関心や自国が優位なこと前提だったり海外で産出する銀に依存したことで中国がヨーロッパに負けたことや、セファルディム(イベリア半島を追放されたユダヤ人)やコンベルソ(カトリックに改宗した元ユダヤ人)、アルメニア人のように故地を追われた人々が交易で果たした大きな役割の話が多く書かれている。

他の著作で多分あまり読んだことがない話としては、例えばサファヴィー朝ペルシアでアルメニア人が絹と銀の交易で儲けていたのは日本産の銀が流通していたからこそで、日本で銀が採れなくなって禁輸してからは儲けられなくなってサファヴィー朝も衰退した話などが印象に残る。

著者があまり詳しくないと思われる古代の話では話がありきたりで面白く感じられなかったところもあるが、産業や交易の話が多くなるにしたがって興味深い話が多くなってくる。




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玉木 俊明 (著)
日本経済新聞出版 (2019/7/13)


経済や商業、貿易、物流、財政などの観点からイギリス史を語っている作品。

ローマ帝国や北欧の強国、フランスなどの一地方だった時代から辺境の島国となった時期、そして7つの海を支配する大英帝国の時代を経て、ヨーロッパの一員からブレグジットにより再び島国に戻りつつあるという歴史観で語られている。

経済で言えば毛織物工業において対岸のアントウェルペンやアムステルダムの下請けみたいなポジションだった時期も長く、原料や中間財の輸出国というだけで従属関係にあるのではなく、販路が限られていることがポイントだという話が印象に残る。

イギリスの前にヘゲモニーを握っていたのがオランダで、オランダが自由な商人たちの活動によって栄えていたのに対し、イギリスは国家が後押ししての支配を進めていた話に続いていく。

オランダから覇権を奪った要因にはクロムウェルによる航海条例があり、これはイギリスから中間貿易を行うオランダ船を締め出すことで海運業のシェアを奪うことを意図していて、複数回にわたる英蘭戦争も発生している。

また、人口や財政規模でイギリスより上だったフランスとは第二次百年戦争、フランス革命戦争、ナポレオン戦争など長らく戦い続けて勝利するわけだが、著者は要因として両国の税制と財政制度を挙げている。

イギリスは消費税の割合が大きくて経済成長に応じて税収を上げることができたのに対し、フランスは地租=固定資産税の割合が大きくて税収が上がらなかったこと、そしてイギリスが国王と議会の対立や南海泡沫事件などを経て国債制度を早く整えることができたことが書かれている。

そして産業革命や「世界の工場」と呼ばれたことから製造業が大英帝国を支えたと思われがちだが、実際には海運や通信、海上保険、金融業などによる部分が大きく、手数料収入で潤った話が書かれている。

また、世界の各地に築いた植民地から構成される「公式帝国」だけでなく、海運力でつながった「非公式帝国」の多さも指摘されている。

こうした帝国は維持コストがかかるために第一次世界大戦(著者は三十年戦争、フランス革命・ナポレオン戦争に続く「第三次欧州大戦」と呼ぶ)によって次のアメリカに覇権を明け渡すこととなり、アメリカの支配構造にも言及されている。

その後、第二次世界大戦後に福祉国家を志向した結果として「イギリス病」に陥ってからマーガレット・サッチャーによる改革、インターネットの普及、リーマンショック、ギリシア危機、ブレグジットと現代の話に続いている。

イギリス史でよく出てくる、海賊や外交、ドロドロした謀略などの話があまり出てこないのが新鮮だし、世界史で必ずしも意識するとは限らない産業や物流、産物などの話が多く書かれていて、興味深く読むことができた。




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玉木俊明 (著)
河出書房新社 (2022/2/26)


ディアスポラ(宗教上の理由などで迫害されて移住を余儀なくされた人々)が、貿易や商業に与えてきた影響を解説している作品。

扱われているのは
  • コンベルソ(イベリア半島でユダヤ教からカトリックに改宗した・改宗したことにした人々)
  • セファルディム(イベリア半島出身のユダヤ人)
  • アシュケナジム(東欧出身とされるユダヤ人)
  • ユグノー(フランスで迫害されたプロテスタント)
  • アルメニア人
  • 故国をイングランドに併合されたスコットランド人とアイルランド人
などで、アルメニア人を除くとほとんどがキリスト教の異教徒・異宗派に対する不寛容さに起因する場合が多い。

まず、日本へのキリスト教伝来で知られるイエズス会のロヨラやザビエルが、コンベルソあるいはコンベルソとつながりが深い人々だったという話から驚くことになり、コンベルソのネットワークがあったからこそアメリカやアジアに進出していけたという事情も理解しやすくなっていく。

また、セファルディムが砂糖や綿花の栽培をアメリカに伝えたり、インドのダイヤモンドと地中海のサンゴでの取り扱いで主流を占めていたこと、アルメニア人がロシアやインド、中国などユーラシア大陸の陸上交易を支配していてイギリスやオランダの東インド会社と協定を結んでいたことなど、ディアスポラが異なる地域・異なる文化のところでの交易で大きな役割を果たしてきたことが分かる。

スコットランド人は傭兵としてヨーロッパで活躍していたのが、その後大英帝国の植民地で商業で活躍しているのを見ると、商業で活躍できない人々が傭兵になるのかな?と思ったり、スコットランドやアイルランドからの移民が多かったことで飢餓を防ぐことができていたなど、さまざまなことを考えたりした。

あとがきで著者は本書のテーマがかなり大きなテーマだったことを語っていて、そう語るだけの興味深い内容だった。




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