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読んだ本の感想をつづったブログです。



陳 舜臣 (著)
講談社 (1991/3/7)


作家・陳舜臣による、中国の歴史を解説したシリーズの第6巻。

洪武帝(朱元璋)死後の内乱(靖難の変)で永楽帝が勝利したあたりから、明から清になって康熙帝・雍正帝・乾隆帝の黄金時代と、イギリスが密輸したアヘンによる弊害が出だした時期までが扱われている。

明が頻繁な粛清・処罰による人材の質と意欲の低下、秘密警察の配備、永楽帝の時期から宦官が権力を握るようになったこと、お互いを徹底的に攻撃する派閥争い、官僚の給与の低さによる汚職の蔓延、重税や厳罰に起因する内乱の頻発、万暦帝のような暗君の続出・・・と、外患だった北虜南倭(モンゴルと倭寇)以上に、内部の問題が多すぎるという、中国の王朝のダメなところが凝縮されたような時期だったことが読んでいて伝わってくる。

著者もひどすぎると思っていたのか、民間から皇帝の母親になる人物が多く出たり、外戚がのさばることが少なかったこと、皇帝の独裁権が強い分だけ代替わりの時期に悪政をリセットできたことなどが長く続いた理由かもしれないとフォローしているのも印象に残る。

明は農民反乱である李自成の乱で滅び、その李自成の順王朝を滅ぼして天下を取ったのが女真族→満洲族の清だったが、前の明の政治が悪すぎたのと、人口が少ない満洲族が多数の漢族を支配しなければいけない事情により、名君を多く出していることもなんとなく理解しやすい。

モンゴル系やトルコ系の民族のようにお家騒動で分解しないために康熙帝が実施した、後継者の指名が皇帝の死後に公表されるシステム以外ではどんなものがあったのか?は多くは書かれていなかったようなので少し気になった。

この巻で扱われた時期は歴史小説などで扱われることが少ないように感じるが、読んでいて楽しい要素が少ないためだろうと理解できた。




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陳 舜臣 (著)
講談社 (1991/2/5)


作家・陳舜臣による、中国の歴史を解説したシリーズの第5巻。
靖康の変後の金と南宋が対立した時代から元朝、そして明の太祖・朱元璋(洪武帝)の治世までが扱われている。

最初に読んだのが中学生の頃で、かなり久しぶりに読み返した形だが、当時はあまり関心や知識がなかったのか、全く読んだ記憶がない話がいくつも出てきて我ながら驚く。
例えば金が華北に楚や斉といった傀儡国家を建設していたことや、当時の金の実力では華北までしか支配できなかったことなどである。

金は北方民族の国家にありがちな内輪もめの多さや人口が少ないことなどが弱点で、一方の南宋では主戦派と和平派の対立が深刻だったことや、軍閥を警戒するあまり武官の待遇が悪くて軍が弱かったこと、朱子学のような現実を無視した理想主義の考えによる政策などで問題がいくつも発生していた話が興味深い。

どうも中華思想からいくと外部の異民族に対しては条約を破ることに抵抗があまりないようで、宋が遼や金、モンゴルに対して約定違反を繰り返しているのは、現在の中共政府が日本などに対してやっていることと変わらないように見える。

次のモンゴル帝国および元のところでは、チンギス・ハンの帝室が遊牧民の国家の例にもれず後継者争いや内輪もめを派手に繰り返しているところや、政治は税をいかに取るかという考えから搾取と浪費が繰り返されていたことなど、大きなインパクトを与えた王朝だったことが伝わってくる。

一方で、モンゴルは金を征服する前にイスラムや東欧に遠征していたことで中華文明を相対化して見ることができたことで遼や金に比べて中華文明におぼれる度合いが少なかったことや、陶器のように宋代で一旦完成した感じのある文化がまた別の要素が加わって新たな文化が生まれた話も興味深い。

その後が元末に各地で発生した反乱から朱元璋がのし上がってくる過程、そして貧農の出身だったこともあって知識人や富裕層、さらには取って代わられることを恐れて功臣たちの大粛清を断行した恐怖の独裁者としての話に続いている。
この辺りは以前読んだ小前亮著『朱元璋 皇帝の貌』でも少し書かれていたことで、より理解しやすかったところがある。

全体的には少し前に岡田英弘著『中国文明の歴史』を読んだことも、本書をより理解する助けになったと思う。

南宋で最後まで抵抗した文天祥の「正気の詩」のように文人や文化の話も随所で触れられていて、改めて充実した内容の作品であることを確認できた。
このシリーズは本作までしか読んでいないので、気が向けば次の第6巻も読んでみようと思う。





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論語抄 (中公文庫)
論語抄 (中公文庫)陳 舜臣
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陳舜臣による、『論語』の言葉についての解釈や時代背景などを語っているエッセイ。
原文が編集された順に話を進めている。

まずまえがきで、説教調にならないよう気をつけたと書いていて、上から目線や説教臭い文章がいかに読者から嫌われるかを分かっていると好感が持てる。
この種の古典や思想に関する本ではこれが分かっていないのか、分かっていてもどうしてもそうなってしまうのか、そのような書き方になっている人が多いのには辟易させられる。

『論語』が編纂された当時は文字を竹簡や木簡に書き付けていて手間がかかることから、分かりきっていたことを省略しているケースが多かったようで、そうしたところの解釈が分かれがちなことが書かれていて、なるほどと思う。

そしていくつかの学説を紹介していて、漢文だと接続詞のニュアンスが伝わりづらくて複数の受け取り方ができてしまうものだと改めて感じる。

弟子たちの問答については彼らのキャラクターや、『春秋左氏伝』や『史記』などの歴史書で描かれた彼らの活動も紹介されている。
例えば子貢が仕えていた魯の国が隣国の斉から攻められないように呉や晋といった斉のライバル国と外交交渉を行っていたなどの話が書かれていて、孔子の弟子たちが政治の世界で活躍していたことが分かる。

この中では清廉潔白すぎて面白みがない顔回よりも、表裏がなくて感情をストレートに表す子路、才能豊かだがしゃべりすぎの傾向がある子貢、孔子に遠慮なく質問するシーンが目立つ子張などの方が感情移入しやすい。

後世に国教化したり朱子学のように原理主義的になった儒教とは合わないような言動を孔子がしていたり、弟子の派閥によって異なる解釈や話が書かれているなどの類推がされているのも興味深い。

著者らしい丁寧で分かりやすい語り口が読みやすかった。






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中国任侠伝 (〔正〕) (文春文庫)
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司馬遷の『史記』に登場する侠客たちの活躍を描いた、陳舜臣による歴史小説集。
先日読んだ『メンターが見つかれば人生は9割決まる!』の内容が、本書に収録されている「似てくる男」に通じているように感じたので、再読してみた。

「似てくる男」は朱家という魯の大親分のところに来た田仲という若者が、朱家を尊敬するあまりちょっとした癖に至るまで真似をし始め、朱家がほとほと弱ったという話を描いたもので、必死になって学ぼうとする人の熱意が感じられるものとなっている。
朱家についてはもう1作の「季布の一諾」でも漢帝国のお尋ね者となっていた季布をかくまう人物として登場していて、これは塚本青史の『史記游侠外伝 一諾』と同じ題材を元としている。

他にも始皇帝暗殺を企てる「荊軻、一片の心」、鶏鳴狗盗という言葉の元となった話である「孟嘗君の客」、漢の高祖劉邦が尊敬する魏の信陵君が登場する「虎符を盗んで」、郭解というならず者が調子に乗りまくる「おれは幸運児」など、中国の戦国時代から前漢の武帝の時代にかけての侠客たちの活躍が描かれていて面白い。





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中国の歴史(四) (講談社文庫―中国歴史シリーズ)
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陳 舜臣
講談社 1991-01-08

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作家・陳舜臣による、中国の歴史を解説したシリーズの第4巻。
隋による天下統一から唐の時代、五代十国と北宋の成立、そして金の侵攻による北宋の滅亡までを扱っている。

隋と唐は王家が鮮卑系ということもあってか、朝鮮半島や西域といった周辺諸国への進出志向が強く、結果として遣唐使で知られるように、世界国家としての性格が強いことが分かる。

また、隋唐では煬帝、李世民、則天武后、玄宗ら、五代十国では朱全忠や李克用、柴栄といった個性豊かな人物が登場する。
鮮卑、突厥、契丹、女真と遊牧民の進出や節度使など地方勢力の台頭、士大夫と宦官の対立、江南の経済力向上などの多くのトピックがあり、この時代のイメージの一端が伝わってくる。

この時代から官僚登用試験である科挙が始まり、皇帝の権力が強まった一方で家臣たちが小粒になってきたような気がするのも興味深い。

この時代を描いた小説では『水滸伝』があるものの、『三国志演義』や『史記』、『春秋』などに比較して日本で知られる史書や小説が少ないように思うが、初めて知ることも多い。



[本書で扱った時代を描いた歴史小説]


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