黒木 亮 (著)
角川書店 (2005/7/25)
90年代後半のロンドンやイスタンブールを舞台に、日本の都市銀行で同期だった2人が大規模な投資案件をめぐって争うスケールの大きな経済小説。
都市銀行のロンドン支店次長の今西は日系のトルコ・トミタ自動車が某国で工場を建設する計画に際し、ヨーロッパやアラブの銀行とともにシンジケート・ローンの形で融資する案件を進めている。
そこに、元同僚でアメリカの投資銀行に転職した龍花が立ちはだかり、古巣の都銀に対して遺恨もあったことから、トミタ自動車の案件を横取りしよう挑んでくる。
国際的な融資にまつわる問題や敵対的買収、為替など多くの金融がらみのトピックが出てきて、目まぐるしく状況が変わるというスリリングな話になっていて面白い。
不良債権に苦しんでいた日本の銀行やイケイケの状態だったアメリカの投資銀行など、当時の事情も垣間見られて興味深く読むことができた。
- 著者の作品について書いた記事
- 『シルクロードの滑走路』 シルクロードの滑走路黒木亮文藝春秋
- 『青い蜃気楼―小説エンロン』

高任 和夫 (著)
講談社 (2005/3/15)
大手商社で審査部の課長が、次々と発生する会社の危機に対して上司や部下、各方面の関係者などと協力して立ち向かう経済小説。
主人公は畿内商事の審査部で課長を務める千草で、職務上仕方がないだろうが多くのトラブルに対応している。
まず、畿内商事が債権や売掛金が数千万円ある瀬戸内の企業が倒産しそうだという情報を得て、倒産した後だと回収額が大きく減るために急いで回収に奔走する。
そうかと思えば、関連会社の取引先が社長の急死によって会社更生法を申請し、変に理想を持ち過ぎた裁判長からは非現実的な再建案を出されたり、畿内商事から破産管財人を出すように要求されるなど、かなりやっかいな事態になっている。
千草は部下の小早川や中川、広島支社にいる同期の梅原、そして上司で審査部長の佐原などと協力し、時に行き詰まる交渉、起死回生のアイデアなど、商社のことを知らない立場からするとダイナミックな展開になっている。
舞台がバブルの時期?で少し古いし、商社ってこんなことするのか?と疑問が出てきたりもするが、テンポが良くて一気に読み進んでいくことができる。
まあまあ面白かったと思う。
- 著者の作品について書いた記事
- 『天下商人 大岡越前と三井一族』

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江戸時代前期に商人ながら幕府からの命令を受け、東廻り航路と西廻り航路の開拓、淀川や大和川、陸奥、越後などでの治水事業、越後の銀山経営など、インフラ事業で多大な業績を上げた河村瑞賢(七兵衛)の生涯を描いた歴史・経済小説。
伊勢出身で江戸に出て徒手空拳から成りあがった七兵衛は、明暦の大火に際して大老の保科正之に(衛生上の理由から)犠牲者の埋葬を優先することを直訴したことをきっかけに、東廻り航路の開拓を命じられる。
これに成功したことで次々と大事業を任されることになり、稲葉正則、新井白石、小栗正矩、堀田正俊、稲葉正休、秋元喬知、内藤重頼など、老中や家老などの知己を得たりもしている。
中でも、変な正義感に凝り固まった感じの若き日の新井白石に対し、七兵衛が武士と商人の立場や役割の違いを熱く語るシーンが面白い。
利害関係者の調整、ある程度の問題を織り込んでの計画、資金繰りや最悪の事態に際しての対応など、七兵衛が現代のビジネスにも通じるような手法を実施しているところが、感情移入しやすくしている。
当然ながら様々な障害も発生するわけで、息子や仲間を失ったりしながらも強い意志で事業に取り組む七兵衛を応援したい気持ちにさせられる。
そして、寿命が短かった時代なのに本書の半分くらいで既に七兵衛が60代半ばになっていて、その後も活躍を続けているところがすごい。
これまで名前は知っていたものの、何人分もの業績を上げている人物だとは理解しておらず、かなり驚かされた。
まだまだ知らない日本史上の偉人はいるものだと思いつつ、興味深く読むことができた。
- 著者の作品について書いた記事
- 『北条氏康 関東に王道楽土を築いた男』

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天下、なんぼや。 | |
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戦国末期から江戸初期にかけての時代、鴻池屋を創業した鴻池新六(山中幸元)の活躍を描いた歴史小説。
話は新六が伊丹にいる大叔父のもとを頼って、飢えをしのぎながら出かけるところから始まる。
そして大叔父が亡くなった後は大鹿屋という酒蔵で丁稚奉公を始めるが、以蔵という杜氏から殴る蹴るといった厳しすぎる指導を受ける。
その後も元同僚や近所に住む豪農の息子からのいやがらせ、店を持った後での風評被害や仲買人との関係など、多くの問題に遭遇する。
そうした中、あるきっかけで清酒を造ることに成功したことや、家康の知遇を得たことなどから徐々に商人として成功を重ねる。
家康やその家臣である酒井忠利、大阪の大商人である淀屋善右衛門らと交流を重ねるうちに、新六が過去の体験から武士が嫌いで商売をしようとしなかったところから、より大きな視点で世の中を銭の力でいかに良くしていくかを考えるようになっていく。
新規参入業者による競合や、新規事業が儲けられるサイクルなど、経営やマーケティングに出てくるような話が出てくるので、経済小説としても読むことができる。
新たなタイプの歴史小説という感じを受け、興味深く読んでいった。
[鴻池新六を主人公にした他の歴史小説]
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[本書で参考文献に挙げられていた作品]
[著者の他の作品]

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天下商人 大岡越前と三井一族 | |
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江戸中期を舞台とした歴史経済小説。
大岡越前守忠相と、2代目高平をはじめとする三井家の人々が主人公となり、それぞれの立場からせめぎ合いを続ける様子が描かれている。
時代劇では大岡裁きのイメージの強い忠相だが、読んでいくと江戸町奉行の職掌は裁判の他に民政や商業政策など幅広いことが読んでいくうちに分かってくる。
時代は徳川将軍6代家宣から8代吉宗にかけての頃で、幕府の体制が貨幣経済の発達についていけなくなり、以下の形で危機に瀕していることが書かれている。
- 農民から税を米で徴収して武士の給与も米で支払われるため、新田開発などで増産すればするほど米価が下がって武士の生活が困窮する
- 江戸が金、上方が銀という使用通貨の違いにより、為替レートの変動で江戸と上方の景気が大きく影響を受ける
- 綱吉時代は荻原重秀の通貨の質を落とす改鋳という形で量的緩和を行っていたが、その後通貨の質を上げる政策を採ったことが金融引き締めと同様の効果を発揮して ひどいデフレに入ってしまった
一方、三井では創業者である高利(宗寿)の後を継いだ高平(宗竺)の代に当たり、高利の主だった息子たちを6つの本家、縁者を連家とし、大元〆(現在で言えばサラリーマン社長)も参画した最高会議で重要事項を決定するなど、組織的な経営を行うようになっていた。
家訓や過去の倒産事例をまとめるなどのルール作りを進める他、幕府内にパイプを作って情報を集めたり、状況に応じて適切な手を打つなどしたたかなところを見せ、潜在的には幕府よりも経済力があるかもしれないことが書かれている。
特に、幕府はいずれ潰れるだろうが三井は生き残る、ただ幕府が潰れた後のことが読めないのでとりあえずは延命させておこうという意味のことを述べていた場面には凄みを感じた。
扱っているのは江戸時代だが、著者が経済小説の著作が多いこともあってか完全に経済小説のスタイルとなっているように感じられて面白い。
忠相を東京都知事+経済産業大臣+国土交通大臣その他、高平を三井財閥の総帥、吉宗を財政再建路線の首相と読み替えると、かなりイメージが明確になってくる。

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