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読書-政治:雨読夜話

ここでは、「読書-政治」 に関する記事を紹介しています。



渡邉哲也 (著)
徳間書店 (2020/7/31)


昨今の米中の対立というか戦争に近い状態の構図を解説し、今後の見通しも語っている作品。

著者の作品はマスコミが報じない重要なことが多いので2か月前からメールマガジンも購読していて、特に安倍首相の次の自民党総裁選について書かれた9月1日付の記事は読みごたえがあった。

中国に関しては武漢肺炎に香港の1国2制度という国際条約の破棄と急激にアメリカをはじめとする西側諸国との対立が激化しているが、長期的なスパンから行くと大変化が起こる時期に当たっているという話で、2010年代中盤は国際的には比較的平穏な時期だったのだろう。

中国による先進国の資本や技術を取り込んでのやりたい放題なやり方は他の著作などでも書かれている話だが、本書ではアメリカによる中国に対する制裁の手段が具体的に書かれていて分かりやすい。
特に、ファーウェイなどの中国企業に対しての輸出や技術供与の禁止と違反への厳罰、そして金融的な制裁はこれからどんどん強化されていくことが予想されている。

こうしたやり方はトランプ政権だからと報じられがちだが、商売人のトランプではなくアメリカ議会の方が強硬的ということが書かれていて、報道が信用できないことを再認識させられる。

さらに、アメリカが中国を排除した経済ブロックの構築を実施していることなど、普段目にするニュースで知ることができないことが多く書かれていて改めて有益な情報だと感じる。

日本のところでは安倍政権がさらに続くとの見通しが書かれていたが、持病の悪化による辞任はさすがに執筆時点では見通すことができなかったのは仕方がない。
ただ、安倍首相と麻生副首相の影響力は継続すると思われるし、二階俊博のような親中派は変なことをするとアメリカから制裁を食らうことが予想されるので、大きな方向は変わらないのかなと考えている。
(それにしても、石破茂が国民的に人気があるというフェイクニュースは何とかならないのか?)

本作でも有益な情報が多く書かれていて、興味深く読んでいくことができた。





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日下 公人 (著)
ワック (2020/6/27)


日下公人による最新の作品。
3年前に読んで以来の著作だが、雑誌に連載されていたものをまとめているということもあるのか、他の著作で出てこない話は少な目になっているような印象がある。

他の著作をあまり読んでいなければ新鮮に感じる話も多いのだが、現在よりは比較的平穏だった2017年頃の話も入っているためか昔話の比率が高いのが一因だろう。

トランプと安倍首相の関係とか、日本の無手勝流によって韓国がイラついていたり習近平が少し諦め気味などという話は比較的最近の話なのでまあまあ面白い。

日本人に対してポジティブに激励するような内容なのも他の著作と同様で、いいと思う。





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池上 彰 (著)
小学館 (2019/11/28)


池上彰による、ブレグジットなどを題材にイギリスとEUについて歴史的なところから解説している作品。
都立高校で高校生たちに講義した内容が元になっている。

池上氏のテレビ番組はどんどん考えの押し付けが目立つので見なくなって久しいが、日本との関連が少なければまだ読めなくもなさそうなので読んだ。

内容としてはEUに属することのメリットとデメリット、UKを構成するイングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの地域ごとの事情、北アイルランド問題の元となった英国教会の成立、保守党と労働党をはじめとする政党政治の現状、階級社会による影響などが分かりやすく語られていて、不足していた部分の知識を得られたのが良かった。

そして、結局本書でも日本下げ、イギリス上げみたいな考えを語り、「ここからは皆さんで考えていきましょう」と自由に考えてもらうようなスタンスを見せつつ、その前段階で考えに制限を加えるような芸風には引いてしまう。
相手が高校生ということもあり、「池上の毒」みたいな印象を受けた。

軍事のところで「日本は物理的に核兵器を持つのは不可能」と語り、その理由に核拡散防止条約の存在やら原潜がないからとか挙げているが、手段は他にも考えられるわけで、想像力が足りないかミスリードを狙っているかとしか思えない。

知識を得るにはいい作品ではあるが、結論のところでテレビ芸人・池上氏のうっとうしさが存分に出ている作品でもある。





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渡邉哲也 (著)
徳間書店 (2020/3/27)


現在も被害が拡大している、中国・武漢を感染源とする新型コロナウイルスによる、今後の政治や経済に及ぼす影響について解説している作品。
著者の作品は変に煽り立てたりする度合いが低くて比較的信用できそうなので、いち早く出た感のある本書を読んでみた。

基調としては少し前からトランプ政権による米中貿易戦争の傾向がさらに強まり、先進国を中心に脱中国の動きが加速していくというものである。
グローバリズムにただ乗りして先進国の技術や資本を得、GAFAのようなグローバル企業も利用して国際社会の支配を狙ってきた中国が、それまでの問題に加えて今回の新型コロナウイルスの対応で非難を浴びる状況となっている。

また、電子機器のような防衛に直結する製品や現在品薄のマスクのような必需品の供給を中国に依存するリスクを各国が認識したわけで、中国に依存しないか、できれば中国を外したサプライチェーンの構築がなされていくという見立てが書かれていて、実際そうなっていくと考えている。

また、アメリカで中国に対して強硬なのはトランプ大統領よりもさまざまな中国を制裁する法律を成立させた議会という話や、日本でも中国からの悪影響を取り除くための法律が制定されているなど、本来メディアで報道されるべき話が多く書かれている。

日本については野党で政策を立案する能力がないという弊害、取材や報道の名のもとにある意味最もコンプライアンスを守っていないメディア業界の凋落、今回の問題でパンダハガーと呼ばれる政財官での親中派が力を失っていくことなどが書かれていて、これもまたメディアで報道しない自由を行使されがちなことだと感じる。

ただ、自民党は良くも悪くも危機に強いことや、政治家がやろうと思えば強力な権限を行使できる「普段使われない法律」の存在、財政投融資の活用案など、コロナ恐慌に対する提言というかやれる方策が書かれているのは少しだけ希望が持てる。

そして、最もコロナの被害を食い止めることに成功した台湾との関係を良くすべきことなど、今回の問題を契機にこれまでできなかった対応が可能になるかもしれないという話もなるほどと思う。

きちんとした見通しがついた本書を読むと、コメンテーターと称する人々の思い付きのコメント、政権批判や日本下げ・中韓上げという結論ありきの論調ばかりが流れるテレビのワイドショーなどは馬鹿馬鹿しくて見る気がなくなる。

感情を煽る報道に左右されることなく、できるだけ冷静な視点を持ちたいものである。





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2020長谷川慶太郎の大局を読む
長谷川慶太郎
徳間書店 2019/10/11



先日逝去された長谷川慶太郎の遺作に当たり、翌年以降の世界情勢に関する分析や見通しを語っているシリーズの最終巻。

米中貿易戦争、令和となった日本の見通し、身の程知らずな主張を繰り返す国の末路、ドイツやイギリスの大変さなどを分かりやすく解説している。

まず印象に残ったのは、米中貿易戦争は第二次世界大戦前のブロック経済のように「自国以外を締め出す」形ではなく「特定の国だけを締め出す」形なのと、どちらの国も大国で貿易依存度がさほど高くないことから、世界経済への影響が思われているほど大きいわけでもなく、他の国、例えば中国の代替先として東南アジアなどは漁夫の利を得る結果となる話である。

トランプ政権が2020年の大統領選挙のために分かりやすい成果を欲しがっていることで交渉相手国から足元を見られている事情も書かれていて、難航しそうと思われていた日米貿易協定でもTPPと同じレベルで早い段階で妥結したのも、この文脈から解説されている。
安倍首相がアメリカから(中国の報復関税でだぶついた)トウモロコシの輸入を決めた話も書かれていて、選挙の激戦区がトウモロコシの大産地という事情からもトランプへ大きな貸しとなったとしていて、大局的な観点からすると大きな効果を上げそうである。

日本がアメリカ抜き・11か国でのTPPを成立させたことは日本外交史上の大成果としていて、同感であるとともに評価する報道があまりに少ないことに不満を感じたりもする。
著者はさらに、TPP11と日欧EPA、さらにはメルスコール(ブラジル・アルゼンチン・ウルグアイ・パラグアイの貿易協定)が合体することもありうるとしていて、成立できれば世界経済の40%近くの自由貿易圏ができるのでちょっとした夢がある。
(メルスコールとの統合にはペルーやチリが反対しそうな気もするが)

他にもトランプと金正恩の成果のなかった会談、安倍首相とイランのハメネイ師やロウハニ大統領との会談、日韓関係でのトラブル、ドイツの苦境、イギリスの混乱などが扱われている。

本書が最後の作品となって次が読めないのは非常に残念だが、これまでいろいろなことを著作を通して教えてもらったと思っている。
著者が遺したという、この言葉も印象に残る。
「中国共産党は必ず崩壊します。皆さん有難う。老人はハイ、さようなら」





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