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読書-経済:雨読夜話

ここでは、「読書-経済」 に関する記事を紹介しています。



エミン・ユルマズ (著)
ビジネス社 (2023/3/1)


中国やロシアの先進国経済からのデカップリングとそれに伴うインフレ傾向、欧米などを中心に便乗値上げなどもあっての格差拡大といった世界情勢を見つつ、日本は無人化技術や需要を中国から奪うことで経済成長していくという見通しを語っている作品。

中国とロシアが野心を隠さない行動をとるようになった背景には現在の体制を維持できないという焦りがあるのでは?という考察や、アメリカでは二大政党のどちらにも支持したくない大きな理由がある上に富裕層や大企業のロビー活動を受けているという絶望、トリクルダウン理論がまやかしだったとの話など、色々と手詰まり感がある国が多いことが分かってくる。

また、サブスクがもてはやされるようになった傾向に対しては資産を持たせないという新たな格差拡大の一種では?という視点を提示していて、これは古代のローマ帝国で「パンとサーカス」でガス抜きをしていたことを連想した。
(現代ではパンがベーシックインカムやフードクーポン、サーカスがサブスクでのエンタメに当たる)

日本については、原材料の高騰をすぐには価格に転嫁しない美徳や、人手不足に対して無人化・省力化の技術での対応、関連技術が追い付いたことで複数の企業が持つ技術がより効果を上げ始めていることで、株価を上げる企業が増えるであろうとの観測をしている。
来年から新NISAが始まることもあって、どの企業に投資するかを考えているところだったために参考になる話が多かった。




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田中 靖浩 (著)
日本経済新聞出版 (2018/9/26)


中世のイタリアで整備された会計書類が、オランダ、イギリス、アメリカと伝わるにつれてどんどん進化していった過程を、産業や絵画、音楽などと関連付けて書かれている作品。

経営者が儲けや損失を知るためにつけていた書類が、投資家が会社の状況を知るためのものにもなり、さらには事業ごとの評価、そしてそれまで金額に換算しづらかったものの評価と、それぞれの時代の必要性に応じて会計手法がいくつも考案されたことが分かる。

ジョージ・スティーブンソン、カール・ベンツ、ジョセフ・ケネディ(JFKの父親)、ジョン・ロックフェラーといった産業や経済に関連の深い人物の他、レオナルド・ダ・ヴィンチ、レンブラント、ルイ・アームストロング、ポール・マッカートニーといった絵画や音楽に関係する人々のエピソードが、いかに会計に関係していたかの話につなげているのも興味深い。

会計についてはあまり知見がないが、イタリアでの簿記の発明からはそれほど長いわけでもないことや管理会計の考案などを知ることができ、読みごたえがあった。

著者の『名画で学ぶ経済の世界史 国境を越えた勇気と再生の物語』や、テーマが近い『会計が動かす世界の歴史 なぜ「文字」より先に「簿記」が生まれたのか』なども読んでいたので、より興味深く読むことができたのではないかと思う。




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ルートポート (著)
KADOKAWA (2019/2/1)


会計、つまり他人とのお金やモノの交換や貸し借りの記録が文字よりも先にできていたという話から、現在の会計制度ができるまでの経済の流れ、そして今後の見通しまでを長期的な観点から解説している作品。

メソポタミア文明でクサビ形文字が使われていたのは有名だが、それよりも前からトークンと呼ばれるモノをかたどった小さな粘土製品が大量に出土していて、これが会計の初期のものだという話にまずインパクトを受ける。

そして、絶対的な君主がいない中世イタリアの都市国家でイスラム圏から伝わったアラビア数字を用いた帳簿がつけられるようになり、さまざまな改良が加えられていくこととなる。

ヨーロッパとは無関係に、実は日本でも江戸時代に商家などでこの手の帳簿がつけられるようになっていたそうだが、企業秘密にされていたために広まることがなかったのは当時の事情があって仕方ないとはいえ、残念に感じた。

ヨーロッパの中世から近世・近代にかけて東インド会社から始まる株式会社や株主総会、オランダのチューリップバブルやイギリスの南海泡沫事件といったバブル崩壊、イギリスの産業革命が人件費の高さとエネルギー費用の安さが背景だったことなど、会計だけでなくそれを取り巻く経済的な背景が分かりやすく書かれている。

数式やモデルをあまり用いず、歴史や会計が苦手な人でも読みやすくする工夫が随所に施されていて、興味深い話を分かりやすく読むことができた。

テーマが近くて積読になっていた『会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカ――500年の物語』も読もうと思う。




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渡邉哲也 (著)
徳間書店 (2023/2/1)


昨今の世界的な政治・経済の情勢について解説している作品。

ロシアのウクライナ侵略、中国の度重なる横暴に対してアメリカの制裁が積み重なっていることを中心に、日本は中国の役割が小さくなることで繁栄の可能性があることを語っている。

ロシアが外交的に強気になったり弱気になったりするのは原油価格による部分が大きく、ウクライナを侵略したのは原油価格の高騰が要因にあり、その背景には民主党・バイデン政権による中東などをめぐる外交やエネルギー政策・環境政策の失敗を挙げている。

特にオバマ政権・バイデン政権で要職にあるジョン・ケリーを「無能な働き者」と評していて、アメリカは民主党が外交をこじらせて戦争になり、共和党がそれを収める構図になっているという。

中国との関係悪化もアメリカの外交の失敗も絡んでいるが、これに加えて中国で鄧小平・江沢民・胡錦涛と続いてきた路線から習近平になってからの独善的な姿勢があり、後戻りできない形になったということが分かってくる。

そして、日本は中国が世界に出てこないといい状態にある傾向があるとし、原発再稼働や環境への負荷が小さい石炭火力発電所への転換によってエネルギー問題の解決ができれば、繁栄の可能性が高いという話につなげている。

著者のメールマガジンを購読していてある程度は著者の考えを知っているつもりだが、書籍の形で整理されたものも読むと、より理解が深まることを再認識できた。




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関連タグ : 渡邉哲也,


エミン・ユルマズ (著)
KADOKAWA (2021/9/29)


一昨年の9月に出された、現在進行中の冷戦での半導体産業における分断や、日本が近未来にアジアの金融センターになる可能性などを語っている作品。

これまでは2年くらいではそこまで本の内容はそこまで古びるものではないが、昨年に始まったロシアのウクライナ侵略が書かれていないことに時代の変化の速さを感じる。

日本の半導体が米中貿易摩擦の時期に発展を妨げられた話や、現在再び半導体産業を盛り返すことができるか?という話には完全に楽観視まではできないにしても、期待できる要素も多いということだろう。

日本がアジアの金融センターになる可能性の話では、例えば兜町の不動産を多く所有する平和不動産の株価上昇や、日本橋での再開発などの例から東京の役割がさらに上昇するであろう話、そしてシンガポールなどは中華やイギリスの影響が強すぎてアメリカが好まないであろうとの話もしていて、そういう見方もあるのかと感じた。




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