池井戸潤の半沢直樹シリーズ(『オレたちバブル入行組』、『オレたち花のバブル組』、『ロスジェネの逆襲』)のワンシーンを元に、銀行業界、会計制度、会社法といった経済用語を解説している作品。
半沢がバブル期に入行したこともあり、バブル期以降の経済や銀行業界の変化についても多く扱われている。
まだ半沢直樹シリーズを読んでいないので本書に登場するキャラクターのイメージがつかめていない部分もあるが、さまざまな事件が発生して半沢が活躍していることは伝わってくる。
粉飾決算をした融資先の企業の社長、それにはめられた現場に疎い支店長、ドラマでは片岡愛之助が演じていた国税査察官の黒崎などが多く登場している印象がある。
銀行業界の特殊さや、バブル崩壊から現在に至る銀行のやり方などが書かれていて、知識が乏しい身からするとなかなか勉強になると感じた。
銀行の総合職は出世争いが激しくて1回の失敗がずっと残り続けることも書かれていたのには大変そうだと感じ、出世した先にある魅力が不足したのか、銀行業界を希望する学生が減少したのも分からないでもないと思った。

トルコ出身で東大卒、野村證券などにも勤務したなど日本在住歴が長いアナリストによる、日本経済の強さや世界情勢、株式投資のついてのアドバイスなどを語っている作品。
著者は先日読んだ『会社四季報の達人が教える10倍株・100倍株の探し方』の著者である渡部清二氏とともに複眼経済塾をやっていることを知り、少し驚いた。
外国人ということもあってか、他の経済評論家が語らないことが多く出てくるのがけっこう新鮮である。
まず、日本では悲観論が悪循環を生んでいることを指摘し、例えば現在の日本が人口が多すぎるので人口減少はそれほど悪いことでもないと語っているところは、他の人からはあまり出てこない。
日本の問題点も指摘していて、例えば消費税は格差を拡大するので増税はすべきではなく、Amazonのような通販に税金をかけることで小売業の保護をすべきという意見は一理あると思った。
また、日本は資本家をできるだけ作らない社会で、官僚主導で発展してきた資本主義と社会主義を組み合わせた国みたいな表現をしていて、この仕組みが現在うまくいっていない一因とも語っている。
産業については銀行は求められないところに貸そうとして求められるところに貸さず、手数料稼ぎばかりをするのであれば存在意義はないと書かれていて、その通りだと思ってしまった。
後半では株式投資に関する話が多く書かれていて、こちらも参考になる。
好成績の企業の経営者は日本の先行きに希望を持っていることが多いらしく、悲観論ばかりなのはやはり良くないのだろう。
一般の投資家がやりがちなことに、利益が少し出たら確定のために売り、損失が出ているものは損失が確定するのが嫌で塩漬けにすることがあるが、著者からすると精神衛生上良くないし意味が分からないとばっさり切り捨てている。
今後の見通しに期待できるものがあって含み損なのはともかく、それもなく塩漬けというのがいけないのだろうと解釈していて、いくつか含み損で特に思い入れもない銘柄の売却をした方がいいかもしれないと感じた。
本書がなかなか面白かったので、今後も著作を出してほしいところである。
資産を10倍にする! 株の達人が教える『会社四季報』のトリセツ
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渡部 清二 エミン・ユルマズ 藤野 英人 加谷 珪一
宝島社 2018/12/7
宝島社 2018/12/7

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父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。
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ヤニス・バルファキス (著), 関 美和 (翻訳)
ダイヤモンド社 2019/3/7
ダイヤモンド社 2019/3/7
ギリシア経済危機の時期に財務大臣としても活躍した経済学者による、娘に語る形式で書かれた経済読み物。
できるだけ堅い言葉を使用しないようにしつつ、経験価値から商品価値への転換、格差の発生と拡大、金融システムや技術の進歩が雇用に及ぼした影響などを時代を追って語っている。
「民主化VS商品化」みたいな対立軸で考えたり、生産手段や通貨の民主化を主張するなど、やや共産主義よりというか現代の資本主義へのアンチ的な考え方と感じる部分が多く、一定の層から評判がいい理由が分かった気がした。
理想は理想として、実現は石破茂氏がよく語るように、「これから皆さんで考えていきましょう」というところなのだろう。
印象に残るところも多いが、あまり好きな作品ではなかった。
ヤニス バルファキス
明石書店 (2019-04-19)
明石書店 (2019-04-19)
NEW POWER これからの世界の「新しい力」を手に入れろ
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ジェレミー・ハイマンズ (著), ヘンリー・ティムズ (著), 神崎朗子 (翻訳)
ダイヤモンド社 2018/12/6
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アベノミクスが果たしてきた役割と今後の展望について解説している作品。
経済のデータの話で難しいところもあったが、大体このようなことが書かれている。
[アベノミクス前の話]
- バブル崩壊からデフレ基調が続いてきた
- デフレから回復しつつあった1997年に橋本政権による消費税増税が経済に打撃を与え、デフレが定着した
- その後も速見、福井、白川といった日銀総裁たちもデフレを放置したことで被害が拡大
- 民主党政権時代に円高まで放置したことで、他国よりもリーマン・ショックからの回復が大きく遅れた
- 第二次安倍政権で日銀総裁にリフレ派の黒田氏を指名し、ようやくデフレからの脱却に本格的に取り組んだ
- 2014年の消費税増税や国際経済の変化による苦難もあったが、トランプ政権の成立がいい方の誤算として働いた
- インフレ率はゼロでも1%台でも失業率が上がるので好ましくなく、2%程度がベストらしい
- インフレ率2%は達成できていないが、その目的である失業率の低下は実現できているわけで、数字だけにこだわると本質を見失う
- これまで完全雇用の目安は3%程度とされてきたが、いまだに賃金上昇につながっていないということは、まだ完全雇用までの余地が残されている
(つまり従来の説は、非正規雇用が少なかった時代までしか有効でなかった)
- アベノミクスと異次元の金融緩和は、このまま続けるのがいい
- 出口戦略がどうとか財政健全化がどうとかいう話は一部の識者や財務省などからあるが、あまり心配する必要はない
- むしろ出口戦略や財政健全化を目指した消費税増税などの方が害悪が大きい
- そもそも、どこの国もリーマン・ショック後は伝統的な財政・金融政策が有効でないことを認識して非伝統的な政策を取っているわけで、日本だけ時代遅れな政策を実施するのは経済に多大なダメージを与える
全体的には急激なインフレもいけないが、失業率を上げる結果となるデフレや微細なインフレもまずいことが分かってきて、改めて経済の難しさを感じた。
マスコミがあまり報道してくれない雇用や経済見通しに関する話を、興味深く読むことができた。

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日本在住暦30年のドイツ人エコノミストによる、現状の日本経済が報道されるよりもかなりいいと思われることを、さまざまなデータを用いて解説している作品。
国債残高の増加、外国人が日本国債を買いだしていること、少子高齢化、移民、マイナス金利、デフレ、トランプ政権誕生、アメリカのTPP離脱など、問題とされることの多くに対して明快にそれほど気にするほどでもないと語っている。
日本人は悲観論が大好きとも書いていて、確かに当てはまると思う。
テレビに多く出演する陰気な顔をしたジジイの話ばかりだと面白くないので、本書のような本でバランスを取った方がいいとも思った。
興味深い話がいくつも書かれていて、楽しく読むことができた。
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