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読書-社会:雨読夜話

ここでは、「読書-社会」 に関する記事を紹介しています。



昨日までの世界(上) 文明の源流と人類の未来 (日経ビジネス人文庫)
ジャレド・ダイアモンド (著), 倉骨彰 (翻訳)
日本経済新聞出版社 2017/8/2




以前読んだ『銃・病原菌・鉄』の著者による、現代の先進国などでの社会と、ニューギニアなどで一部残っているかつて多くの地域に存在した小規模な社会を比較し、その違いやそれぞれの長所と短所、小規模な社会から学べる(かもしれない)ことなどについて、さまざまな事例を挙げて語っている作品。

上巻では、他の部族やそのメンバーとの関わり方、過失により死傷者が出た場合の補償や交渉の方法、戦争の流儀、子供や高齢者の扱われ方などがテーマとして書かれている。

国家が成立する前は平和な社会だったというのは単なる幻想で、戦争による死者の全体に占める割合は2度の世界大戦があった近現代よりも、それ以前の社会の方が多かったことや、欧米の支配を受けて政府が成立したことで部族間の抗争が激減して政府の必要性を住民が語る話などが印象に残る。

政治家や官僚、税金などの弊害があっても政府があるのは、こうした自力救済による個人対個人、集団隊集団の抗争が連鎖することを防ぐためという理由が大きいという話は分かりやすい。

システマチックな現代の社会のやり方、そして情緒や別の合理性があるそれ以前の社会のやり方と、いいところと悪いところを認識した上でより良い方法を考えるという趣旨になっている。

話自体は興味深いのだが、『銃・病原菌・鉄』でも見られた、事例に関する話が多くてなかなか次の話題に進まない部分があり、読むのに時間がかかった。

下巻を続けて読むかどうかは、考え中というところである。




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増淵 敏之 (著)
洋泉社 (2017/12/4)


おにぎりという日本人には身近過ぎて意識しないことも多い食べ物について、由来や歴史、バリエーションなどを紹介している作品。

まず、むすぶという神に供えるとか宗教的な役割があったおにぎりだが、携帯食として優れているために戦場での食事や旅人が食べるものとして多く食べられるようになったことが順を追って書かれている。

また、地域性による呼び名や形状の違いも大きく、コンビニが広めた三角形のほかに球状、東北などで味噌をつけて焼きやすくするため球状のサイドを平らにした太鼓型、観劇の際に食べやすい俵型などの話が面白い。

そして、三角形の形状に真ん中の切れ込みを引っ張るだけでパリッとした食感を楽しめるコンビニおにぎりの話が書かれている。
現在のような包装になる前の包装についての試行錯誤や、セブンイレブンの従業員の方が息子がやっていたことから商品化されて定着したツナマヨおにぎりという奇跡的な組み合わせの話が印象に残る。

おにぎりの具にはどのようなものが合うのか?ということも書かれていて、本来脂っこいものは毎日食べ続けるには重いのだが、マヨネーズの酸味が食べやすくしているとのことで、なるほどと思った。

他には、海外でおにぎりに相当する食べ物があまりないか、あってもあまりいいイメージがない話があり、手で握ることと冷めたごはんを食べるというのが日本以外では抵抗があるらしいこと、それでいてアニメに出てくるのでおにぎり自体は知られている話などが面白い。

そこまで期待して読んだわけでもなかったが、思っていた以上に興味深い話が多かった。





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日下 公人 (著)
PHP研究所 (2018/5/15)


日下公人による、論理だけでなく情の力が必要で、それらをうまく利用できている日本を世界が見習っていくという元々の論調で書かれている作品。

多様な民族が交じり合う他国では論理や合理性で対応していくしかなかったが、メンバーにある程度の同質性があった日本では情の力で効率的に世の中を回してきた例が多く扱われている。

そして欧米から取り入れた成果主義のような合理性一本やりのやり方がうまくいかなかったのも当然としていて、戦前の軍隊やマスコミでも頭でっかちの人が増えておかしくなった話も語っている。
こうした頭でっかちな人は外国が仕掛けたプロパガンダに引っ掛かりやすい傾向があり、情の力を持つ人は少し考えればプロパガンダのおかしさをすぐに分かるとも書いている。

第二次世界大戦での話もしていて、戦争に至る時期に日本人の多くが感じていたのはアメリカのフランクリン・ルーズヴェルト政権や中国の蒋介石政権のやり方の汚さに対する怒りと、日本がやってきたことを理解する気がないことに対する悔しさだったようであり、日本だけが悪いみたいな見方が薄っぺらいことを再認識する。

著者からは当時の日本ではアメリカが突き付けた「ハル・ノート」を公開したり、日本がユダヤ人を保護していたことを大々的にアピールしたり、アメリカへロビー活動してフランクリン・ルーズヴェルトを追い落とす工作をするなど、できた可能性が高いのにやっていなかったことが多かったことへの残念さが伝わってくる。

著者の作品を読むのは久しぶりだが、論旨の明快さや前向きさが伝わってきていい作品だと思う。
高齢なので体調に気を付けてほどほどのペースで、これからも楽しませてくれる本を出してくれることを期待している。





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関連タグ : 日下公人,


安田 喜憲 (著)
PHP研究所 (1997/09)


環境考古学者による、日本に現存してかつてはメソポタミアやドイツにも存在した森の恵みを尊重する文明と、キリスト教などに代表される砂漠から生まれて自然を支配しようとする文明の違いなどを語っている作品。

森の文明では蛇や牛、大地母神などが崇拝される傾向にあり、日本だけでなく例えばギリシア神話のメデューサやミノタウロスも、元々は地元で崇拝された神々だったのが、その後に地域を支配したギリシアやローマの文明から怪物に格下げされ、貶められていったようなことが書かれていて、他の本でも読んだことがあるような気がして納得しやすい。

気候の変動が歴史に及ぼした影響なども書かれていて、例えばヨーロッパでペストが大流行した背景には、森を伐採しすぎてペストを媒介するネズミの天敵が少なくなっていたことを挙げているのがなるほどと思った。

その時期に実施されていた魔女狩りについても、森の信仰の中心である大地母神を弾圧していた一面もあるという話には少し驚いた部分もある。

他にも著者が中東で実施していたレバノンスギの救済活動や、中国での森林伐採の背後に日本の宗教団体が暗躍しているという話、こだわりの文明といいとこどりの文明の違いなどについても語られている。

シリアが内戦で簡単には行ける場所ではなくなったなど少し古くなったところもあるが、著者の他の作品にもみられるような環境から社会や歴史を捉えている話を興味深く読むことができた。






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「ドライな外国人とウェットな日本人」のような企業や社会で見られるステレオタイプな考えに対して、調べたり著者の経験からそうではない事例を出し、一見問題とされてきた性質や慣習などがいい効果も上げているのではないか?という話をしている作品。

ドライとされる外国の企業でもグーグルやシリコンバレーのベンチャー企業などではファミリー的な雰囲気や制度があったり、独裁的な経営者のイメージがあるジャック・ウェルチが従業員の家族に手紙を送るようなところがあったエピソードなどを紹介している。

そして日本で見られるハラスメント(嫌がらせ)については、実はこれが職場環境を「公平」ではなく日本人が好きな「平等」にする効果があるとか、格差が広がると富裕層のストレスが高まって早死にする傾向があるなど、言われてみればそういう面もあるなという話が書かれている。

後ろの方にある、日本人が不安を感じやすくて集団になりがちという傾向を遺伝子レベルでの話につなげているところでは、かなり以前に読んだ竹内久美子著『パラサイト日本人論―ウイルスがつくった日本のこころ』に書かれていたことを思い出し、まあまあ楽しく読むことができた。

何事にもいい面・悪い面があるということで、視野の広さをもちたいところである。




経済の不都合な話 日経プレミアシリーズ
ルディー和子
日本経済新聞出版社 2018/7/10



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