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読書-歴史小説(世界):雨読夜話

ここでは、「読書-歴史小説(世界)」 に関する記事を紹介しています。


司馬 遼太郎 (著)
新潮社 (1984/9/27)


司馬遼太郎による、始皇帝死後の内乱から楚漢戦争を描いた歴史小説。

中学時代に本書を読んで面白かったので該当する時代を扱った陳舜臣著『中国の歴史(二) 』(中国歴史シリーズ)を読み、そこから中国の古代史や諸子百家などの本を多く読むようになったきっかけとなった。

『こち亀』の両津勘吉みたいなキャラクターの劉邦と、育ちが良くて残酷なことを平気でやってしまう項羽を中心に、始皇帝、趙高、蕭何、張良、韓信といったメジャーな人物だけでなく、召平や陳嬰、紀信といったその後他の本であまり読んだことがないのでマイナーと分かった人物の描写も印象に残っている。

読んだ当時も面白かったが、時間が経ってから他の歴史小説などを読んでから思い出してもかなりいい作品だったと再認識できる。
読み返すとまた違った印象になるかもしれないが。





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宮城谷昌光 (著)
新潮社 (2021/1/19)


中国の戦国時代に活躍した学者・公孫龍を描いた歴史小説の第1巻。

衰えた周国の王子・稜は父親である周王から北の燕国へ人質として出向くよう命じられ、途中の趙国を通っていた頃に事件に巻き込まれ、封印されていた周王から燕王への手紙に稜を殺すように書かれていることを知ってしまう。
これは稜を排除して別の王子を王位に就けようという勢力の陰謀と推察され、この時点で稜は周の王子として生きられないと判断し、商人の公孫龍という人物として生きることを決意する。

また、趙の公子2人を山賊や暗殺者たちの襲撃から助けたことで信任を受けただけでなく、燕の昭王からも知遇を得たことで、趙と燕の2か国にまたがって商人として活動していくことになる。

扱われている時代では孟嘗君、楽毅、郭隗、趙の武霊王、平原君など、『戦国策』や『史記』などでも有名な人物が多数登場するのがいい。
主人公がやや脇役っぽくて、周囲が著名人という形となっているのは、昨年の大河ドラマ「麒麟がくる」に似ているように感じた。

公孫龍を支える家臣たちの活躍が目立ったり、趙の公子何(後の恵文王)と公子勝(後の平原君)の兄弟の素直さ、2人の父親である武霊王の底知れなさなど、スケールの大きな話が展開されてきそうな感じがあり、続きを期待させてくれる。





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宮城谷 昌光 (著)
文藝春秋 (2020/10/8)


孔丘(孔子)の生涯を描いた歴史小説の長編。

人間臭い孔丘を描くという意図からか、『論語』で出てくることの少ない若い頃の話が多く扱われている。
それもあって、秦商や顔回の父親、漆雕啓(しっちょうけい・子開)といった初期の弟子が多く登場してたり、子路や子貢といったあざなではなく仲由や端木賜のように本名で表記していて新鮮に感じる。

魯の重臣である季孫氏に招かれたのにその家来である陽虎に追い返されて落ち込んだり、意地を張って弟子たちにたしなめられるような孔丘の姿が描かれていたり、春秋時代に君主の権力が重臣たちに奪われる下剋上の傾向が出ているところなどはそれなりに面白い。

また、『論語』に出てくる言葉が(当然ながら)しばしば出てくるところもいい。

しかし、井上靖の『孔子』でも感じたことだが、『論語』などで聖人とされている上に実像があまり分かっていないと思われる孔丘は小説にするには難しい人物のようで、エンターテイメントとしてはそこまで面白いかというと微妙なところである。

著者があとがきでも書いているが、それだけ手を出すのは危険な題材ということだろう。






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宮城谷 昌光 (著)
文藝春秋 (2020/1/4)


中国の春秋時代、晋で大臣として活躍して最終的には韓氏・魏氏とともに晋を簒奪することになった趙氏の人々を描いた連作形式の歴史小説。

  • 晋の文公(重耳)に従って繁栄の基礎を築いた趙衰(趙成子)
  • 執政として君主の廃嫡にも関与した趙盾(趙宣子)
  • 断絶の危機に瀕した時期の趙朔(趙荘子)
  • 忠臣たちに守られて育ち父・趙朔の仇を討った趙武(趙文子)
  • 士氏や中行氏といったライバルや他国の敵対勢力と戦った趙鞅(趙簡子)
  • 韓氏・魏氏とともに知氏を滅ぼした趙無恤(趙襄子)
といった当主たちに加え、公孫杵臼、程嬰、董安于、尹鐸、陽虎、張孟談といった家臣などの関係者たちの活躍も描かれている。

公孫杵臼や程嬰による趙氏断絶の危機に立ち向かった「月下の彦士」や、「老桃残記」で魯で下剋上に失敗して亡命してきて評判が悪い陽虎が趙鞅に仕えてからは忠臣として大活躍する話、趙鞅の時代に本拠とした晋陽の街に関するやり取りなどが印象に残る。

長く続いた一族にまつわる形式の連作小説はあまり読んだことがなく、もっとあってもいいと思う。
本書で扱われた趙一族は、それに耐えるだけ名君が出たということなのだろう。





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安能 務 (著)
講談社 (1992/01)


春秋戦国時代を真っ向から扱った歴史小説3冊のうちの下巻。

田氏による斉の簒奪、趙氏・魏氏・韓氏による晋の分裂などを経て本格的な戦国時代になり、始皇帝による統一までが扱われている。

孟子、荀子のような諸子百家と言われる思想家、張儀や蘇秦など口先で国を動かした遊説家、呉起や楽毅などの名将たち、商鞅のような改革者、多数の食客を登用し国政に影響を与えた戦国四君(孟嘗君・信陵君・平原君・春申君)や呂不韋など、歴史小説の主人公になった人物が多数登場し、人材や思想の面で華やかな時代だったことを再認識できる。

「まず隗より始めよ」、「刎頚之友」、「完璧」、「奇貨居くべし」、「鶏鳴狗盗」など、故事成語になっているエピソードも随所に出てくる。

儒教では孔子に次ぐナンバーツーの扱いをされる孟子については、論争で論理のすり替えのようなことをたびたびやってドン引きされるシーンが書かれ、「白馬非馬説」で詭弁の代表みたいな扱いをされる公孫竜とあまりやっていることは変わらないのに、儒教至上史観から持ち上げられすぎているという趣旨のことが書かれているのが面白い。

後半は秦の天下統一への過程が多く書かれているため、『キングダム』で活躍する人物も多く登場する。
他の歴史読み物であまり目にしたことがなかった、反乱を起こした王弟の成キョウ(長安君)や「山の女王」として描かれる(けどおそらく本当は男性と思われる)揚端和、盗賊団の首領上がりとして描かれた桓キなどの名前が出てくるのでテンションが上がる。

また、『キングダム』には(少なくとも今はまだ)登場していなくて、歴史読み物でもそれほど扱われていないように感じる、尉繚(うつりょう)という人物のことも印象に残った。
この人物は兵書『尉繚子』の著者の曽孫に当たるとしていて、始皇帝に「最高の兵法は兵法を用いないこと」と語り、他国の大臣を買収する戦略を提言し、成果を上げていることが書かれている。
そして始皇帝の恐ろしい部分を察知して逃げようとしたが、引き留められて才能を出させられた形になっている。

「始皇帝が悪く言われがちなのは中国人が本質的に統一や整った支配を好まないから」という趣旨のことを書いていたり、尉繚が提言した買収工作は現在の国際社会でもやっているお家芸だと感じたりと、なかなか読み応えのある作品だと感じた。
本書は20年近く前の作品ではあるが、再販しても売り方によってはそれなりに売れる可能性があるのではないかとも思う。





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