人類学者で国立民族学博物館の設立や世界各地での学術調査、『文明の生態史観』や『知的生産の技術』といった著作など多くの業績を残した梅棹忠夫による、さまざまな事情や自身の素質などでならなかった、あるいはなれなかった職業や生き方について語った、自身のIFを扱った変則的な自伝。
「ぼくは大工」、「ぼくは極地探検家」、「ぼくは芸術家」、「ぼくは映画製作者」、「ぼくはスポーツマン」、「ぼくはプレイボーイ」の6編が収録されている。
この中では南極探検隊の隊長になる話がきていた話が最も魅力的なIFなのだが、そちらに進んでいたら『モゴール族探検記』のような中央アジアの砂漠地帯での業績がなかった可能性が高く、著者が語っているように砂漠に深入りしていたのが運命の分かれ目だったということなのだろう。
一方で著者が一時期やっていた俳句があまりにもひどくて先生から破門された話も隠さずに披露していて、多才な学術界の巨人もスーパーマンではないことを知って親しみが持てる。
2012年に日本科学未来館に特別展「ウメサオタダオ展 —未来を探検する知の道具—」を観に行った時にさまざまなもののスケッチが大量に展示してあり、それが異常に上手いできばえだったことを記憶していたが、元々絵や空間認識についての素質や関心があって学術調査に活かされたことが分かって納得できた。
他にも桑原武夫や今西錦司、西堀栄三郎といったそうそうたる人物との交流や、初期から関わる機会が多かった映画やテレビの世界や業界人に対して不信や疑問を抱くようになってテレビ出演をしなくなったなど、現在のマスコミ不信につながる話が語られているのも興味深い。
本作は正規の自伝に当たると思われる『行為と妄想 わたしの履歴書』の外伝のような位置づけをされるみたいなので、『行為と妄想』にも関心を持っている。
- 著者の作品について書いた記事
- 『文明の生態史観ほか』
- 『知的生産の技術』
- 『梅棹忠夫 語る』
- 『世界史とわたし―文明を旅する』
- 日本科学未来館に特別展「ウメサオタダオ展 —未来を探検する知の道具—」を観に行った
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先日、図書館に割引券が置かれていたことをきっかけとして、日本科学未来館に特別展「ウメサオタダオ展 -未来を探検する知の道具-」(2011年12月21日~2012年2月20日)を観に行った。
場所は『踊る大走査線』をイメージしてしまう東京湾岸警察署の近くであり、新橋からゆりかもめで行った。
この特別展は『文明の生態史観』や『知的生産の技術』などの著作や国立民族学博物館の設立など多くの業績を挙げた民族学者・梅棹忠夫氏(1920~2010年)の、業績や知的生産に使用した数々のものの展示である。
梅棹氏はモンゴル、アフガニスタン、アフリカ、モンテネグロなど、世界各地のフィールドで現地の人々と暮らすなどの体験をし、多くの著作を残している。
体験したことやアイデアは京大式カードと後に呼ばれるカードに書きとめ、組み合わせられるように体系立てて管理していた。
こうしたメモやノートが展示されていて、PCのなかった時代の整理手法には改めて驚かされる。
また、各地でスケッチをしたものも多く展示されていた。
写真は現像しないと書き込めないが、スケッチならばすぐにメモを書き込めるという梅棹氏の意見も書かれていて、確かにそうだと思った。
かなり写実的かつ必要な情報が書かれたスケッチにはセンスを感じることができる。
他にも、梅棹氏の著作や講演での言葉があちこちに展示されていた。
”日本はアジアだと誰が決めた”や”日本は西のアジアよりも、同緯度の国々が近いかもしれない”という趣旨の意見があり、興味深い。
梅棹氏の偉大さを再認識し、楽しむことができた。
梅棹忠夫 語る (日経プレミアシリーズ) | |
小山 修三 日本経済新聞出版社 2010-09-16 Amazonで詳しく見るby G-Tools 関連商品 行為と妄想 わたしの履歴書 (中公文庫) 情報の文明学 (中公文庫) 文明の生態史観 (中公文庫) 夜はまだあけぬか (講談社文庫) 移行期的混乱―経済成長神話の終わり |
『文明の生態史観』や『知的生産の技術』などで知られ、昨年亡くなった梅棹忠夫氏との対談を、梅棹氏の弟子に当たる人類学者がまとめている作品。
これまで梅棹氏がやってきたことや考え方が語られていて、驚いたり笑ったりする部分が多く興味深い。
実際に自身で見たり体験したことの重要さ、学会で権威を振りかざすことへの反発、情報産業論に対して情報ばかり取り上げられることへの不本意さなどが多く出てくる。
梅棹氏くらいのレベルになると大学者たちについても軽くけなしてしまうあたり、かなり痛快に感じる。
例えば和辻哲郎の『風土』はどうしたんだというくらいの駄作と言ったり、丸山真男はいいやつだけど話す内容はマルクスの亜流でつまらないと言ってみたりという具合である。
テレビが出だした頃はあまり評価されていなかった放送について、情報を作り出しているから誇りを持つよう放送人たちを励ました話、当初はよくテレビ出演していたものの途中から出演しなくなったのは忙しくて仕事にならないことや、テレビに出演していた子供がどんどん悪くなるのを見たからという。
学校から放校処分になったり、敗戦による引き上げ、肺病、失明と多くの挫折を乗り越えてきたことが書かれていて、それらを乗り越えてきた強さにも感嘆する。
他にも、以下のようなエピソードに触れられていて興味深い。
- 論戦にはかなり強い人物で、負けを認めたのは少数民族にいたイスラム教の法学者だけだったらしいこと
- エリート主義は江戸時代に威張っていた武士階級の末裔としていること
- 国立民族学博物館の初代館長としての活躍のところでも、博士課程終了は運転免許だとか 足の裏に付いた飯粒と言うところ
フィールドワークで描いてきたスケッチのうまさや、著作における文章の分かりやすさについては、科学者(理学博士)ならではのものと述べている。
さすがに日本語もローマ字で表記すべきという意見にはうなずけないが、それ以外は面白い。
- 梅棹氏の作品について書いた記事
- 『文明の生態史観ほか』
- 『知的生産の技術』
- 『世界史とわたし―文明を旅する』
世界史とわたし―文明を旅する (NHKブックス) | |
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『文明の生態史観』や『知的生産の技術』で知られる梅棹忠夫による歴史エッセイ集。
2誌に連載していたものをまとめたもので、各項がそれぞれ数ページの読み切りなのでどこから読んでもいいし読みやすい。
内容は前書きで述べているように、世界各地で著者が実際に訪れたり何らかの体験をした土地の歴史に関するもので、日本人になじみの少ない地域が多く扱われている。
具体的には中国から見た辺境(雲南やチベット、内蒙古)や中央アジア、イスラム圏、東アフリカなどで、時代も古くは北京原人から新しくは南米への日系移民と非常に幅広い。
著者の体験した内容というのも探検隊を組織しての調査から終戦直後の混乱など、これまた多くの出来事が書かれており、こうした経験が文明の生態史観などの学説に活かされているのだと感じられた。
他の著作とも共通するが、かなが多くて平易さを念頭に置いたと思われる文体も読者への気遣いが感じられるもので、エッセイとしても歴史読み物としても面白い。
[著者によるアフガニスタンでの探検記]
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『文明の生態史観』などで知られる梅棹忠夫による、情報の整理や文章の書き方といった知的生産の技術についてエッセイ風に論じている本。
50年近く前に出版されたもので、道具的にはカーボン紙で複写したりかな文字のタイプライターを使用するといった現在では既に進化したものもあるが、発想としてカードによる情報の整理や読書の後に記録をつける習慣、日記は心情的なものもいいが客観的な事実を書くのも一つの方法など、現代でも十分通用するような内容となっていて非常に参考になる。
独特のかなの多い平易な文章で書かれており、かなが多い理由についても語っていたのでそれも面白かった。