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読書-歴史(日本:中世):雨読夜話

ここでは、「読書-歴史(日本:中世)」 に関する記事を紹介しています。



本郷 恵子 (著)
朝日新聞出版 (2020/12/7)


前の時代の鎌倉時代と比較し、室町時代に将軍や幕府要人の権力構造や、朝廷や公家、寺社といった他勢力との関係などを書状や儀式なども踏まえて解説している作品。

鎌倉時代は朝廷が幕府に対して主導権を取ってほしい意向を示していたのに対して幕府が消極的だったことが書かれていて、御家人の組織から始まったために全国組織としては対応ができていなかったような感じのことが書かれている。

それに対し、室町幕府では初期に主従的な権力と統治的な権力の2種類を足利尊氏(+高師直)と足利直義で分担していたことや、2代将軍義詮、3代将軍義満の時代に活躍した管領・細川頼之の政策などから、鎌倉時代よりもより一歩進んだ形で有力守護が各エリアを支配することから積み上げた形での統治構想が書かれている。

この時代は寺社の中で室町幕府が禅宗寺院を重視していたため、従来勢力を持っていた延暦寺、園城寺、興福寺といった南都北嶺の寺社勢力との抗争が繰り返され、細川頼之が失脚した要因にもなっている。

文書や権力、寺社がらみの話であまり頭に入ってこなくて斜め読みになった部分も多かったが、理解が追い付く部分については興味深く読むことができたかとは思う。




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板野 博行 (著)
三笠書房 (2021/11/29)


鎌倉時代の歴史書『吾妻鏡』の内容と、編集責任があった北条氏による曲筆の疑惑などを分かりやすく語っている作品。

天台座主で関白・九条兼実の弟でもある慈円を語り手としている。
この慈円は『愚管抄』を著していて、第一次史料である分だけ『吾妻鑑』よりも記述が正しいとされている。

内容としては「鎌倉殿の13人」に出てきた話がやや通説寄りで語られていて分かりやすい一方、近年の歴史研究の結果があまり反映されていないので物足りない部分もある。

「慈円が語る」という形式のために、少し踏み込んで「こうだったに違いない」みたいな書き方をしていると思われる。

中には他の関連書であまり書かれていない、源(土御門)通親という公家と丹後局という後白河法皇の愛人の2人が、朝廷や幕府の要人たちを手玉に取って政治を引っ掻き回した話なども興味深い。




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岡田 清一 (著)
KADOKAWA (2021/10/21)


北条氏が鎌倉幕府でどのようにライバルたちを排除し、一族内や政権内での対立などが続けられてきたかが書かれた作品。

多くの研究から、教科書でよく出てくる言葉である「執権」や「得宗」が概念について見解が分かれることや、『吾妻鏡』で史実を曲げられたと思われる話の背景などが丁寧に書かれている。
言い換えると、ライト層には少し退屈に感じる部分も多い。

大河ドラマ『鎌倉殿の13人』のところは比較的有名というか類書を読んで知っている人物が多数登場していて興味深く読むことができるが、義時の子の泰時の時代からは、よく知らない人物が多数登場するのでちょっと読むのがつらくなった。

かなり前に放送されていた和泉元彌主演の大河ドラマ『北条時宗』を観たら、もう少し分かりやすくなるかもしれない。
記憶しているだけで渡辺謙、渡部篤郎、柳葉敏郎、伊東四朗、北村一輝、川崎麻世、宮迫博之・・・と、かなり濃いキャストだった印象がある。




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渡邊 大門 (著)
講談社 (2011/5/18)


戦国時代が始まる前、室町幕府の統治機構がいかにして崩壊していったかを語っている歴史読み物。

著者による『諍いだらけの室町時代 戦国へ至る権力者たちの興亡』と重なる部分も多いが、本書では京都と比較的近い地方(近江や出雲、越前など)の話が多く、東国での混乱についての記述は少ない。

その一方で、室町幕府の奉公衆(親衛隊)や奉行人(官僚)が政治に口を出して有力守護たちとトラブルになったり、幕府要人たちや朝廷の公家たちが前例に従って物事を決めていたのが政治の混乱によってできなくなっていった過程の話は、本書の方が充実している印象である。

6代将軍・足利義教が専制政治をやろうとして嘉吉の乱で暗殺されてから統治機構がさらに機能しなくなり、8代将軍の義政も当初は政治に意欲を見せていたが、幕府官僚たちや有力守護の干渉で思うように統治ができず、政治センスのなさによって混乱に拍車をかけていたこと、そして当時の天皇や有力な公家たちも政治の立て直しをやろうとしてできなくなっていった事情が書かれていて、個人の働きではいかんともしがたかったことが伝わってくる。

全体的には、形式や前例での政治をしていた時代から、実質がどうなっているのかによって物事が決まる時代に変わっていると語られている。

応仁・文明の乱や明応の政変、北条早雲が堀越公方を滅ぼした事件などが戦国時代に変わるきっかけとされるが、それ以前にそうした傾向が出ていることが多くの事例を挙げて書かれていて、興味深く読むことができた。





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西股総生 (著)
主婦と生活社 (2022/3/25)


昨年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の時代考証を担当した歴史学者により、イラストを多用して分かりやすさを重視した形でこの時代の話を解説している作品。

イラストがあることで文章では伝えにくかったであろう、新宮十郎行家の残念ぶりや大姫が病むしなかかった事情、荘園システムで私腹を肥やしている過程などが分かりやすい。

特に、頼朝政権の初期に書記役を務めていたが、書き方に間違いが多くて後世の歴史学者たちから偽書だと疑われていた、藤原邦通を著者は気に入っているようで、このあたりの話が面白い。

東大史料編纂所の本郷和人氏が「藤原邦通が書いたのなら間違っていて仕方ない」と指摘したという話からは、当時は人材不足で文字が多少書ければ採用されたということなのだろう。

頼朝が大姫入内計画の先には皇族将軍を迎える構想があったのでは?という説など、多分他で読んだことがない話も書かれていたのも興味深かった部分である。





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