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読書-SF(日本:シリーズ):雨読夜話

ここでは、「読書-SF(日本:シリーズ)」 に関する記事を紹介しています。



月村 了衛 (著)
早川書房 (2021/8/18)


近未来に警察庁に属する特捜部の機甲兵装(人が操縦する、パトレイバーやボトムズのようなロボット)が活躍する『機龍警察』シリーズの第6作。

国内の軍需企業で開発されていた国産機甲兵装の機密を漏らした罪で国際指名手配されていた君島がミャンマーの奥地で逮捕され、ミャンマー政府からは危険な地域のため日本から身柄を引き取りに来るよう条件が付けられたことで、その任務が特捜部の姿、ユーリ、ライザの3名に回ってくる。

これは政府や警察の組織内で暗躍する<敵>による、3人を亡き者にして体内に埋め込まれている龍騎兵の操作ユニットを奪おうという謀略であることを特捜部長の沖津は察したものの、<敵>の根回しが周到だったために引き受けるしかなくなってしまった。

姿たち3人が連れていかれたのはバングラディシュやインドとの国境に近い密林地帯で、第2次世界大戦でインパール作戦の結果として多くの日本兵が死んだために「白骨街道」と呼ばれている。
ここにはロヒンギャを弾圧する国軍や警察、少数民族の武装勢力、密輸集団などが入り乱れた危険地帯でもあり、警備および監視のために同行している現地の警官たちとも言い合いになるシーンも多く出てくる。

このシリーズでは当然ながら姿たちや君島を付け狙う武装勢力も機甲兵装を用いてくる一方、身一つで入国せざるを得ないために姿たちは機甲兵装を使用できずに苦戦するが…という形で話が進んでいく。

また、国内では特捜部理事官の城木の親族が経営する城州グループが軍需企業や政府との不透明な金の流れが指摘され、前作でも登場した捜査二課の面々や財務捜査官の仁礼も含めて捜査に当たっていて、ミャンマーでの話と並行して語られている。

著者は本作を執筆している最中にミャンマー国軍によるアウンサンスーチー派に対するクーデターが発生していて参ったと書いていて、近未来小説なのか現代の小説なのか判然としなくなったところも印象に残る。

これまでチェチェンや中華企業、ミャンマーなどが扱われてきたので、次とは限らないがいずれウクライナも扱うのではないかと考えている。
果たして機甲兵装はジャベリンを撃たれたら対応できるのだろうか?

本作も重くて読みごたえがあり、ぐいぐいと読み進めることができた。





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板倉 俊之 (著),
角川書店 (2013/11/22)


インパルスの板倉俊之が書いたガンダム小説の第1巻。

一年戦争が連邦の勝利に終わったもののジオン軍の残党がテロを繰り返している時代が舞台で、ジオン残党とそれに癒着した連邦関係者の排除を目的とした特殊組織・シャドウズの隊長を務めるカインが務めている。

カインや部下に当たる友人たちはジオン軍のザクによる襲撃によって家族を失った戦争孤児たちから構成されていて、黒いジムスナイパーⅡやジム改などを乗機とし、ティターンズになる前の組織という感じがする。
ある時カインのチームは地球の砂漠地帯にあるジオン残党のアジトを襲撃する任務を受ける。

そして後半では舞台は宇宙に移り、ジオン軍の毒ガス攻撃によって家族を失って宇宙海賊となったウイングスとその仲間たちが登場する。
彼らは闇市場からモビルスーツを調達できるようで、宇宙海賊のくせにジムカスタムや量産型ガンキャノン、高機動型にカスタマイズされたジムなどを運用している。

搭乗するモビルスーツが連邦軍が量産型だが特徴があって魅力的なタイプであり、敵が運用するモビルスーツは数が多いザクの他、高機動型ゲルググやカスタマイズされたと思われるヅダやドムなどで、マニアックなところが非常にいい。

板倉がガンダムが大好きなことが伝わってくる内容の作品で、思っていた以上に面白かった。





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鷹見 一幸 (著), 鷲尾 直広 (イラスト), 野田 昌宏 (原案)
早川書房 (2009/6/25)


野田昌宏によるスペースオペラの名作シリーズである『銀河乞食軍団』について、『宇宙軍士官学校』などの著者である鷹見一幸がその前日譚としてリメイクした作品の第1巻。
本編はまだ読んだことがないが、著者の『宇宙軍士官学校』を読んでいて面白かったので読んでみた。

舞台は多くの資源が採取できる惑星系の蒼橋(あおのはし)で、ここは紅天(こうてん)という企業が開発していたが、その紅天からの搾取があまりにもひどいということで、蒼橋の労働者たちが組合だけでなく秘密裏に義勇軍まで結成し、抵抗の機会をうかがっていた。

そしてあるきっかけでストライキに入ったところから話が始まっている。
これに対して紅天からは鎮圧の軍が、そして連邦政府からは紛争阻止のために(後に星海企業を設立する)ムックホッファ准将や大尉のロケ松が所属する艦隊が、そして新聞社からは特派員として女性記者のロイスが派遣されて・・・と、話の舞台が整っていく。

蒼橋側は紅天からの契約で惑星系の外で活動できる戦艦や強力な兵器などの所有を禁じられているものの、地の利を活かしたり採掘者としての知恵を用いて戦っていくという形で話が進んでいく。

地名や船名、通り名などが和風で話し言葉が江戸っ子風なのはかなり癖があるものの、慣れてくるとなかなか面白いし、話のテンポもいいので一気に読み進んでいくことができた。
続きも気になるし、本編に関心を持つきっかけにもなった。





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機龍警察 狼眼殺手 (ハヤカワ・ミステリワールド)
機龍警察 狼眼殺手 (ハヤカワ・ミステリワールド)
月村 了衛
早川書房 2017-09-07

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近未来に警察庁に属する特捜部の機甲兵装(人が操縦する、パトレイバーやボトムズのようなロボット)が活躍する『機龍警察』シリーズの第5作。

捜査二課(知能犯・経済犯罪担当)が追っていた経済産業省と香港の企業フォン・コーポレーションとの合同プロジェクト「クイアコン」をめぐる汚職に関連し、関係者が次々と殺害される事件が発生する。

そして殺害された人物の元には事件当日にローマ法王のお札が郵送されていて、予告殺人の疑いもあり意図が不明なことに警察幹部たちは苛立ちを募らせ、捜査一課(強行犯担当)、捜査二課、そして特捜部の合同捜査を進めることとなる。

今回は大きな利権が絡むプロジェクトに関係した事件を扱っているだけに、警察の各部門だけでなく地検、国税、政治家、経産省、法務省、中国共産党、チャイニーズマフィアと、縄張り争いやら裏取引やらで濱嘉之の『警視庁公安部 青山望』シリーズに近いテイストの話になっている。

そして機甲兵装が暴れるシーンよりも特捜部の面々が抱えてきた過去などの話も多く扱われていて、次回以降への伏線となりそうな話がいくつも描かれている。

新たに登場したキャラクターでは財務捜査官(税理士や会計士出身者が警察で経済犯罪を捜査する役職)の仁礼(にれ)が存在感を出していて、ワーカホリックが日常となっている技術班の鈴石主任を気遣うなどのシーンが出てくる。
元々が警察官ではないので飄々とした雰囲気ながら、帳簿から経済犯罪の「声」や「歌」を聴くことができるという表現が面白い。

今回も特捜部は警察内部に勢力を張る<敵>との争いに巻き込まれ、超然とした雰囲気を出している特捜部部長の沖津が悩むシーンも回数を追うごとに増えている。

重くリアルだが読み進めてしまう魅力のあるシリーズで、続きが早く出ることを期待してしまう。






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機龍警察 未亡旅団 (ハヤカワ・ミステリワールド)
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月村 了衛
早川書房 2014-01-24

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近未来に警察庁に属する特捜部の機甲兵装(人が操縦する、パトレイバーやボトムズのようなロボット)が活躍する『機龍警察』シリーズの第4巻。

本作ではチェチェンでテロに遭った女性たちで結成されたテロリスト組織「黒い未亡人」が日本に入国し、自爆テロを含めたテロ活動を開始するところから話が始まる。

「黒い未亡人」はリーダーの「砂の妻」、元兵士で長剣を得意とする「剣の妻」、短剣を用いた変幻自在な動きが持ち味の「風の妻」を中心としていて、女性や子供しか搭乗できない小型の機甲兵装「エインセル」の使用や自爆テロを辞さない戦法に警察が後手に回るシーンが続き、被害が拡大していく。

また、特捜部主任の由起谷が六本木で半グレ集団を叩きのめした少女のカティアと出会ったり、特捜部理事官の城木が兄で与党副幹事長を務める宗方亮太郎が警察内部で特捜部の活動を妨害する<敵>の協力者ではないかという疑惑に苦しむなど、警察内部での話も多く描かれている。

本作では特捜部と合同で対応に当たる公安部外事三課課長である曽我部のくせの強さが印象に残る。
馬面で落語家みたいに間延びした話し方という先代の三遊亭円楽みたいな容貌に、饅頭やお汁粉のような甘いものに目がないことなど、一見とぼけた管理職に見せて実は切れ者というギャップが際立っている。

他の作品と同様に機甲兵装が暴れるシーンは重要なところのみで、それ以外では事件の背景や各人の経歴を描いているところが物語に厚みを加えていて好感が持てる。
また、新潟県警では「毘」(上杉謙信の旗印)のエンブレムをつけているといった小さなネタを入れているところもいい。

警察で配備されている機甲兵装の数が少ないような気がしたり、自衛隊の存在感がないようなつっこみどころは多少あるものの、ストーリーの重さとリアルさが押し切っていく。

本作も一気に読み進んでいったが、機甲兵装が市街地で暴れるような世の中にはなってほしくない。






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