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読んだ本の感想をつづったブログです。


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陳 舜臣 (著)
講談社 (1991/2/5)


作家・陳舜臣による、中国の歴史を解説したシリーズの第5巻。
靖康の変後の金と南宋が対立した時代から元朝、そして明の太祖・朱元璋(洪武帝)の治世までが扱われている。

最初に読んだのが中学生の頃で、かなり久しぶりに読み返した形だが、当時はあまり関心や知識がなかったのか、全く読んだ記憶がない話がいくつも出てきて我ながら驚く。
例えば金が華北に楚や斉といった傀儡国家を建設していたことや、当時の金の実力では華北までしか支配できなかったことなどである。

金は北方民族の国家にありがちな内輪もめの多さや人口が少ないことなどが弱点で、一方の南宋では主戦派と和平派の対立が深刻だったことや、軍閥を警戒するあまり武官の待遇が悪くて軍が弱かったこと、朱子学のような現実を無視した理想主義の考えによる政策などで問題がいくつも発生していた話が興味深い。

どうも中華思想からいくと外部の異民族に対しては条約を破ることに抵抗があまりないようで、宋が遼や金、モンゴルに対して約定違反を繰り返しているのは、現在の中共政府が日本などに対してやっていることと変わらないように見える。

次のモンゴル帝国および元のところでは、チンギス・ハンの帝室が遊牧民の国家の例にもれず後継者争いや内輪もめを派手に繰り返しているところや、政治は税をいかに取るかという考えから搾取と浪費が繰り返されていたことなど、大きなインパクトを与えた王朝だったことが伝わってくる。

一方で、モンゴルは金を征服する前にイスラムや東欧に遠征していたことで中華文明を相対化して見ることができたことで遼や金に比べて中華文明におぼれる度合いが少なかったことや、陶器のように宋代で一旦完成した感じのある文化がまた別の要素が加わって新たな文化が生まれた話も興味深い。

その後が元末に各地で発生した反乱から朱元璋がのし上がってくる過程、そして貧農の出身だったこともあって知識人や富裕層、さらには取って代わられることを恐れて功臣たちの大粛清を断行した恐怖の独裁者としての話に続いている。
この辺りは以前読んだ小前亮著『朱元璋 皇帝の貌』でも少し書かれていたことで、より理解しやすかったところがある。

全体的には少し前に岡田英弘著『中国文明の歴史』を読んだことも、本書をより理解する助けになったと思う。

南宋で最後まで抵抗した文天祥の「正気の詩」のように文人や文化の話も随所で触れられていて、改めて充実した内容の作品であることを確認できた。
このシリーズは本作までしか読んでいないので、気が向けば次の第6巻も読んでみようと思う。





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内藤 誼人 (著)
宝島社 (2008/2/19)


心理学者の内藤誼人氏による、実際はともかくとして何となく「大物」らしく思わせるような手法を紹介している作品。
必ずしも大物扱いされたいわけでなくても、ビビっているところを隠したり舐められないようにしたりと、一定の利用価値がある。

内容としては見た目、動きや話し方の速度、一緒にいる人など、言動や雰囲気が周囲の人から見てどのように感じられるかが具体的に書かれていて分かりやすい。

必ずしも利用できるものばかりではないが、おごりではなく少し多めに出すことや文書やメールで伝えることの利点、悪いことが続いてもたまたまなので気にしすぎないこと、命令ではなく確認する話し方、相手に結論を出させる誘導話法などが参考になる。

表紙が野中英次作『課長バカ一代』の八神なのも非常に親しみやすく、楽しく読むことができた。





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渡邉哲也 (著)
徳間書店 (2020/3/27)


現在も被害が拡大している、中国・武漢を感染源とする新型コロナウイルスによる、今後の政治や経済に及ぼす影響について解説している作品。
著者の作品は変に煽り立てたりする度合いが低くて比較的信用できそうなので、いち早く出た感のある本書を読んでみた。

基調としては少し前からトランプ政権による米中貿易戦争の傾向がさらに強まり、先進国を中心に脱中国の動きが加速していくというものである。
グローバリズムにただ乗りして先進国の技術や資本を得、GAFAのようなグローバル企業も利用して国際社会の支配を狙ってきた中国が、それまでの問題に加えて今回の新型コロナウイルスの対応で非難を浴びる状況となっている。

また、電子機器のような防衛に直結する製品や現在品薄のマスクのような必需品の供給を中国に依存するリスクを各国が認識したわけで、中国に依存しないか、できれば中国を外したサプライチェーンの構築がなされていくという見立てが書かれていて、実際そうなっていくと考えている。

また、アメリカで中国に対して強硬なのはトランプ大統領よりもさまざまな中国を制裁する法律を成立させた議会という話や、日本でも中国からの悪影響を取り除くための法律が制定されているなど、本来メディアで報道されるべき話が多く書かれている。

日本については野党で政策を立案する能力がないという弊害、取材や報道の名のもとにある意味最もコンプライアンスを守っていないメディア業界の凋落、今回の問題でパンダハガーと呼ばれる政財官での親中派が力を失っていくことなどが書かれていて、これもまたメディアで報道しない自由を行使されがちなことだと感じる。

ただ、自民党は良くも悪くも危機に強いことや、政治家がやろうと思えば強力な権限を行使できる「普段使われない法律」の存在、財政投融資の活用案など、コロナ恐慌に対する提言というかやれる方策が書かれているのは少しだけ希望が持てる。

そして、最もコロナの被害を食い止めることに成功した台湾との関係を良くすべきことなど、今回の問題を契機にこれまでできなかった対応が可能になるかもしれないという話もなるほどと思う。

きちんとした見通しがついた本書を読むと、コメンテーターと称する人々の思い付きのコメント、政権批判や日本下げ・中韓上げという結論ありきの論調ばかりが流れるテレビのワイドショーなどは馬鹿馬鹿しくて見る気がなくなる。

感情を煽る報道に左右されることなく、できるだけ冷静な視点を持ちたいものである。





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峰岸 純夫 (著)
講談社 (2017/10/11)


室町時代の関東で応仁の乱に先駆けて発生して30年もの間戦われた、享徳の乱について解説している作品。

戦国時代は応仁の乱から始まったとされることが多いが、著者は享徳の乱が始まりであり、応仁の乱にしても享徳の乱の処理が長引いたことが遠因としていて、読んでいくとなるほどと思わせてくれる。

構図としては以前読んだ水野大樹著『もうひとつの応仁の乱 享徳の乱・長享の乱: 関東の戦国動乱を読む』の記事にも書いた通り、室町幕府(足利義政・細川勝元)の支援を受けた関東管領(上杉氏)VS古河公方(足利成氏)でなされたもので、利根川(当時は東京湾に流れ込んでいた)沿いが前線となっていて、幕府方は武蔵の五十子(いかつこ)という地に陣を敷いて戦っている。

登場する人物や勢力が多すぎるためか、本書では代表として東上野の新田岩松氏を狂言回しのような扱いで紹介していて、一族内での争いや合戦での活躍、そして寝返り劇と、境界に位置する国人領主らしい動きが分かる。

戦いが長引くうちに、中世になされてきた「職の体系」と呼ばれる1つの土地に複数の領主(本家・領家・荘官・地頭など)が存在する土地システムが新田岩松氏のような国人たちに横領されたことで徐々に崩れ、1つの土地に1つの領主のみが存在する「戦国領主」が出現したことが書かれていて、その後に「戦国大名」が出現する前段階となっている。

この戦いも当然ながら双方ともに疲弊したようで、大雪で両軍が動かせなくなったことをきっかけに「都鄙合体」と呼ばれる和平が結ばれるが、幕府は目的だった成氏の討伐に失敗したわけで、成氏が勢力を確定した形となっている。

もう一方の上杉氏では長尾景春の乱や扇谷上杉定正による太田道灌暗殺などで内輪もめが発生し、「関東管領」という称号ではなく「大途」と称するようになった話も興味深い。

その後、周辺の甲斐、伊豆・相模、越後からはそれぞれ有名な戦国大名(武田信玄、北条氏康、上杉謙信)が登場するが、この地域から彼らに匹敵する存在が出てこなかったのも何となく分かるような気がする。

似た名前の人物が何人も登場して少し難しいが、知名度がやや低かった戦いについて丁寧に解説がなされていて、興味深く読むことができた。





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