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読んだ本の感想をつづったブログです。


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乃至 政彦 (著)
ワニブックス (2021/2/25)


上杉謙信が十数回にわたって関東に出陣して北条氏と戦った「越山」や「越相大戦」と呼ばれる軍事行動について史料を読み解き、通説と異なる事情を語っている作品。

まず、越山の前に北条氏康と山内上杉氏・扇谷上杉氏・古河公方の連合軍が激突した「河越夜戦」などの話の時点で、通説と異なる話が書かれているのに衝撃を受ける。
連合軍の主将格が山内上杉憲政ではなく古河公方・足利晴氏だったことや、和睦を模索していた北条氏康に対して強硬的な態度で臨んだ古河公方とその家臣たちの失策、夜戦ではなく日中の合戦だったらしく「砂窪合戦」と呼ぶ方が実態に合っているなどがその例である。

次に、謙信が上洛した時期に将軍・足利義輝や関白・近衛前嗣が謙信に期待したのは畿内で三好氏などの諸勢力を抑えることだったが機能しなかったこと、そして近衛前嗣が謙信による越山のきっかけを作った話となる。

通説だと上杉憲政が謙信に家督と関東管領職を譲ることが当初から意図されていたというが、本書によると近衛前嗣が足利藤氏から関東公方の職を引き継いで東国の軍を率いて室町幕府を立て直す…という計画で話が進められていたとのことで衝撃を受ける。
もっとも、藤氏の家老で舅にも当たる簗田晴助らの反対によって実現せず、謙信を関東に引き入れた諸将に期待されるというその場のノリで関東管領の名代を引き受けざるを得なくなったという話で、謙信にとってはかなり迷惑な話だったと思われる。

その後、近衛前嗣は関東公方になれる見込みがなさそうだったので謙信に相談もせずに関東のことをほっぽり出して京に戻ってしまい、前嗣の希望に従って苦労していた謙信がキレたらしいことも書かれていて、気持ちは非常に分かる。
後に残ったのは北条氏との遺恨と混乱した関東の情勢で、誰も得をしない戦いが続くことになったことには微妙な気持ちになる。

謙信のライバルである武田信玄、関東の有力者である太田資正や里見義堯、負けまくったことで有名な小田氏治などの話も随所で書かれていて、多彩な内容にもなっている。

他にも、上杉謙信女性説や「敵に塩を送る」の故事、越山が略奪のためだった説への反論や考察なども書かれていて、謙信への思いが伝わってくるのもいい。

思っていた以上に刺激的な内容が多く書かれていて、大いに楽しんで読むことができた。





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鈴木了三 (訳編)
インタープレイ (2015/12/17)


中国の怪異話の翻訳を22編収録しているアンソロジー。
編者によると、人間味が深く、メルヘン的色彩の濃いものを選んだとのことで、『聊斎志異』や『捜神記』などからの収録もある。

「忍者になった娘」や「姿を見せぬ友達」、「竜女を妻にした男」、「のどにできたこぶ」など、そのへんにいそうな人が実は…みたいな話が多く、この手の話が好きなので面白さを十分に楽しむことができた。

のどから猿が出たり、お腹からすっぽんが出たり、眼から小人が出てきたりと、人体がらみの話はちょっと痛そうで引いてしまったり、個人的な貸し借りにきっちりしているのが中国的なのかな?と思ったりもした。





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昭文社 旅行ガイドブック 編集部 (編集)
昭文社 (2021/11/25)


各都道府県の情報が充実して掲載されている昭文社の『トリセツ』シリーズの大分県版。
大分、別府、中津、日田あたりに行ったことがあることもあり、読んでみた。

まず、火山、断層、扇状地など起伏の大きな地形が背景にあり、結果として温泉があちこちで沸く「おんせん県」と呼ばれる事情が分かる。
また、日豊本線、久大本線、豊肥本線があるほか、日田彦山線が九州北部豪雨で路線の復旧はしなさそうなこと、かつては九重町から熊本県小国町を結んだ国鉄宮原線、路面電車の大分交通別大線、中津から守実温泉を結んだ観光用の大分交通耶馬渓線などが存在した話が興味深い。

歴史では中世に宇佐神宮の荘園が豊前一帯から豊後北部まで広域に存在したことや、大内氏と大友氏の戦い、江戸時代に天領だった日田が金融業でオランダに例えられた話などが印象に残る。

近代以降では鯛生(たいお)金山での金産出、由布院や関あじ・関さばなどのブランディング、臨海部の工業地帯建設、一村一品運動など、さまざまなトピックが扱われている。

個人的には別府を温泉地として発展させた油谷熊八の銅像を見ていること、実際に長い山道を歩いた先に見た熊野摩崖仏のことを思い出し、懐かしい気持ちになった。

このシリーズは「ブラタモリ」的な要素を多く含んでいて、どの巻も興味深く読むことができる。





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菅下 清廣 (著)
実務教育出版 (2022/6/6)


資源高、円安、インフレという情勢の中で株式投資の有効性とともに、短期・中期・長期の波動を考慮することで成功の確率を高める方法について語っている作品。

まず、現在進行中のロシアによるウクライナ侵略なども関連して資源高やインフレがしばらくのトレンドになることが書かれていて、それに比べて日本の金利は上がりにくいことから、株式投資を物価上昇への防衛策として勧めるようなことが書かれている。

次いで、著者がしばしば引用する糸川英夫による「コンドラチェフの波60年周期」仮説と、著者による「77年周期」説を出していて、前者ではこれからの世界が下降の30年を、後者では日本が上がる50年をたどることが書かれている。

この手の長期法則はまあ200年くらいのスパンのものなので、精度の点でどれくらいのものなのか?ということには疑問はあるものの、現在の情勢を見ると頭に入れておくのも悪くないと思わせてくれる。

そこから、株式投資でしばしば使用されるチャート分析と、江戸時代にチャート分析の元祖の1人ともされる本間宗久が遺した相場格言の話、さらには資産インフレとDXの情勢下で有望な株式の銘柄を紹介している。

正直チャートのことはサインを本当に見極められるのか(見間違えないか)自信がないので深入りできないものの、長期的なスパンで銘柄の紹介とその根拠を教えてくれているのは大いに参考になる。

著者の本は数冊読んでいて、本書もまた興味深く読むことができた。
投資に活かしていきたい。





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