家族が語る山下清 | |
山下 浩 並木書房 2000-07-01 Amazonで詳しく見るby G-Tools 関連商品 日本ぶらりぶらり (ちくま文庫) ヨーロッパぶらりぶらり (ちくま文庫) 山下清作品集 山下清―山下清放浪日記 (人間の記録 (98)) 山下清のすべて―放浪画家からの贈りもの (エヴァ・ブックス) |
貼り絵で知られる画家・山下清の甥に当たる山下浩氏による、清の実像について語っている本。
著者は清をサポートしてきた実弟の辰吾氏の長男で、生前は同居して一緒に遊んでいたという。
確か福岡アジア美術館に「放浪の天才画家 山下清展」を観に行った際の展示も、著者の名であいさつが書かれていたと記憶している。
『裸の大将』でデフォルメされたイメージが一人歩きしているきらいがあるが、
- 放浪の旅では絵を書くことはなく、並外れた記憶力で記憶した風景を後でじっくり作画する。
- 几帳面な性格から一度決めた仕事時間は厳正に守り、時間になるとキリが悪いからといって続けたりせずにスパッとやめる
- ランニングに半ズボンのイメージに反して実際はおしゃれで、ベレー帽にスラックスという服装が多かった
- いたずら好きで、ブーブークッションなどのいたずらグッズを多く所持していた
また、コメントを求められることも多かったそうで、最初は清なりに普通に答えていたのが、途中からサービス精神を発揮するようになったことも書かれている。
”兵隊の位に直すと・・・”という口癖が有名で、この形で地方都市を例えるとほとんどが少佐になってしまうため、途中から”日本の○○の大将”といった形で切り抜けているのにはちょっと感心した。
同居していた著者と清の間のエピソードも書かれている。
- 清に絵を描くことが好きなのかどうかたずねたところ、”仕事だからな”とあっさり答えられた
- 家族ですき焼きを食べる際は清が肉を取るスピードが速く、著者が肉を食べられずにべそをかいた
- 清は人に何かを教えることは嫌いだったが、著者とその弟にだけは貼り絵を教えることもあった
全体として清は絵を描くことや有名になることではなく、あくまで自由きままに旅をして美しい風景を見るのが楽しみだったということが伝わってくる。
巻末では清の作品についてのスタンスが述べられており、贋作問題や修復活動についても書かれている。
先日観た特別展でも修復活動についての展示が充実していて、着実に活動がなされていることが分かった。
清の日記を3冊読んでこれらも面白かったが、身近な人物による清を描いている本書も別の印象があって良かった。
清が語った言葉や家族との写真も多く入っていて、興味深い一冊だった。
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ヨーロッパぶらりぶらり (ちくま文庫) | |
山下 清 筑摩書房 1994-09 Amazonで詳しく見るby G-Tools 関連商品 日本ぶらりぶらり (ちくま文庫) 裸の大将遺作 東海道五十三次 (小学館文庫) 山下清のすべて―放浪画家からの贈りもの (エヴァ・ブックス) 山下清の放浪日記 裸の大将一代記―山下清の見た夢 (ちくま文庫) |
”裸の大将”として知られることの多い画家・山下清によるヨーロッパ旅行を日記にまとめている作品。
この旅行は、清の保護者・プロデューサーとして活躍した精神科医・式場隆三郎博士が所属する医師の団体旅行に、ゲストとして参加した形である。
廻ったのはドイツ、イギリス、フランス、スウェーデン、デンマーク、スイスなどで、有名どころでは大英博物館、ルーブル美術館、タワーブリッジ、ベルサイユ宮殿、エッフェル塔などを訪問している。
ヨーロッパへ旅行するということで準備をどうするかというあたりから話が始まり、外務省の係官への返答をどうするか式場博士に相談したり、飛行機に乗ってCAに”飛行機が地球を飛び出したりしませんか?”と聞いたりするなど、始まりから面白い。
ヨーロッパに着いてからも、グリニッジでは標準線の反対側がどうなっているのか気になったり、行きたかったスラムに行けなくて残念がったり、パリでは画家がペンキ屋の副業をしていると聞いてパリに住めそうと思うなど、さまざまなエピソードが続いていく。
本書の前作で日本版とも言える『日本ぶらりぶらり』と同様、式場博士との掛け合いも面白い。
「日本のゴッホ」と呼ばれていることもあって、式場博士が清をゴッホの作品のある場所にばかり連れて行くことについて、これは式場先生のくせだと語っている。
そして、ゴッホについては生きている間に評価されなければ意味がないという感想まで述べている。
今回は絵を描くという目的もあっての旅だったため、ところどころでスケッチをしていることも書かれている。
この旅での経験が、先日福岡アジア美術館に「放浪の天才画家 山下清展」を観に行った際に展示されていた、ヨーロッパの風景を描いた貼り絵につながったと思うと感慨深い。
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太陽の地図帖 山下清の放浪地図 (別冊太陽 太陽の地図帖 13) 山下 浩 平凡社 2012-04-19 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
日本ぶらりぶらり (ちくま文庫) | |
山下 清 筑摩書房 1998-04 Amazonで詳しく見るby G-Tools 関連商品 ヨーロッパぶらりぶらり (ちくま文庫) 山下清のすべて―放浪画家からの贈りもの (エヴァ・ブックス) 裸の大将遺作 東海道五十三次 (小学館文庫) 家族が語る山下清 裸の大将一代記―山下清の見た夢 (ちくま文庫) |
画家・山下清による、日本各地を旅行した見聞をつづった日記。
放浪を繰り返していた時期の『山下清の放浪日記』に続くもので、この時は既に画家として有名になっている。
放浪そのものはその後も時々やっているが、多くは実弟あるいは保護者兼プロデューサーとして清を世に出した精神科医の式場隆三郎氏とともに旅行していたことを書いている。
冬の間に滞在することの多かった鹿児島をはじめ、岐阜の大仏や鳥取砂丘、東京近郊などを訪れたことをペン画とともに書いていて面白い。
『放浪日記』にもあったように、”ので”という接続詞を多用して一文が極端に長いかと思えば、”つらいのです”といった形でストレートな心情は短く区切るという文体は本書でも同様で、独自の魅力がある。
寿岳章子という国語学者の解説によると、文章の面白さに驚き研究としてにまとめたという。
その文体から、死後のことは分からないので神仏を拝んだりしないという現実主義や、行く先々でうまくお礼を言えないことへのもどかしさ、メンコで覚えたという兵隊の階級で物事の尺度を判断することなどが書かれていて、時折素朴ながらも本質的なことを指摘していたりする。
強烈なボケを連発する清に対して、冷静かつ的確なツッコミを入れる式場博士がいることも面白さを加えていて、常識とは何かを考えさせられたりもする。
式場博士によるあとがきで、清をヨーロッパ旅行に連れて行く話をしており、それを扱っている『ヨーロッパぶらりぶらり』も読むつもりである。
山下清の放浪日記 | |
山下 清 (著), 池内 紀 (編集) 五月書房 2008-12 Amazonで詳しく見るby G-Tools 関連商品 日本ぶらりぶらり (ちくま文庫) ヨーロッパぶらりぶらり (ちくま文庫) 裸の大将遺作 東海道五十三次 (小学館文庫) 裸の大将一代記―山下清の見た夢 (ちくま文庫) 山下清のすべて―放浪画家からの贈りもの (エヴァ・ブックス) |
貼り絵で知られる画家・山下清が20代頃に書いた日記を、池内紀が編集した作品。
先日福岡アジア美術館での特別展に行った際、展示されていた清の文章に関心を持ったため読んだ。
清が書いた原文は難しいわけではないが、点(、)や丸(。)、かぎかっこ(「」)などの記号を全く使っていない。
これは清によると”実際の会話で点とか丸とは言わないから”という。
そのため、本書で編集されているように記号がついていた方が読みやすい。
通っていた八幡学園がいやになって逃げ出すところから始まり、千葉や茨城周辺を放浪して弁当屋や魚屋などで働くこともあるが、半年くらい経つとまたいやになって逃げ出すという行動が克明につづられている。
その間、実家の母親のもとに戻ったり、八幡学園が懐かしくなって戻るシーンも出てくる。
また、行く先々では嘘を言って食べ物を貰ったと正直に書いており、苦笑しながら読んでいくことになる。
編者の池内紀が「はしがき」で、
ただ徹底して、この世に合わない人物だった。と表現していたこととも符合していて妙に印象に残る。
太平洋戦争開戦、空襲、敗戦、食料の配給なども書かれ、兵隊に取られて殴られるのは嫌だと何度も書いている。
結局徴兵検査で不合格になってホッとしたことも書かれているが、これは彼の作品を鑑賞することができる後世の我々にとっても幸せなことだったと思う。
千葉、茨城、福島、栃木、静岡などあちこちを訪れていて、富士山に登山しようとしたがつらくてあきらめるなど、観光もしている。
巡査に職務質問を受けたり、悪ふざけが過ぎて留置所に入れられたり、精神病院に入れられるなどのエピソードも出てきて、『裸の大将』の元となっただけのことはあると思った。
駅の待合室や周辺の目立たない場所で寝泊りすることが多く、駅の待合室で乗客や他の浮浪者との会話もしばしば書かれている。
例えば”色気とは何か?”や、”暑い時期に長袖の服を着るのと半袖の服を着るのはどちらが好ましいか?”といった問答を行っているのが面白い。
ひとところに留まっていると出ていきたくなるという清の行動は、先日読んだ『爆笑問題のニッポンの教養 「脱出したい!」のココロ 海洋生命科学』で塚本教授が語っていた、『おくのほそ道』でいうところの”そぞろ神”の働きによるものなのかもしれないと感じておかしくなった。
また、行く先々で人々の善意を受けたり働いたりという行動を読んでいて、以前似たようなものを見た記憶があると思った。
しばらく考え、日本テレビ系『進め!電波少年』の企画でブームとなった、猿岩石のユーラシア横断の旅だと気付いた。
本書の元となった『山下清放浪日記』が1958年に出版された際はすぐに売り切れたいうことだが、『猿岩石日記』みたいな感じだったのかもしれない。
清自身による放浪時の姿を描いた素描画も掲載されている。
シンプルだがおかしみと不気味さが入り混じった感じのタッチとなっていて、貼り絵とはまた違った感じを楽しむことができる。
清の人柄が感じられて興味深く読んだ。
本書の後に清が書いた日記も出版されているので、これらも読もうと思っている。
3日前、川端にある福岡アジア美術館に「放浪の天才画家 山下清展」を観に行った。
行った時間が夕方だったためか、地元のテレビ局と思われる取材がなされていた。
山下清といえばどうしても芦屋雁之助や塚知武雅が演じる『裸の大将』シリーズのイメージが思い浮かぶが、今回の展示では実際の清の実像に迫ることを目的としてなされている。
例えば『裸の大将』では旅先で絵を描くシーンがしばしば出てくるが、実際には旅に画材を持って行くことはなく、作品は全て旅の記憶を元に製作したものだったという。
解説にも書かれていた通り、清のイメージを持つ力と卓越した記憶力のすごさに驚く。
清の作品といえば貼り絵が有名だが、これ以外にもペン画や油絵、皿絵、陶磁器への絵付けなど、様々な種類の作品が展示されている。
例えば最後の作品となった「東海道五十三次」は貼り絵にする構想もあったらしいが、急逝のため素描の形で残っている。
技法についても解説されていて、質感を出すために古い切手や封筒も貼り絵に使用するなど、他の画家はまずやらないと思われる技法がいくつも用いられているのも興味深い。
貼り絵だけでなく、油絵ではチューブから絵の具を直接出して点描画のように製作したり、細かなタッチが表現しづらいフェルトペンでペン画を描くなど、まさに天才だと思う。
こうした清の作品は傷みがひどくなっていたものも多いということで、修復家・岩井悠久子氏による修復前と修復後の比較ができるのも興味深かった。
作品ももちろん面白かったが、清が書き残した多くの文章もそれに劣らず面白い。
今回は放浪した際の出来事を描いた放浪日記の一部や、通っていた八幡学園に提出した「放浪をやめる誓い」、それぞれの作品についてコメントした内容などが展示されている。
例えば岐阜の大仏を描いた作品では、
と書き、パリのムーラン・ルージュの絵では僕はお宮やお寺を拝んでもどうなるのかわからんので 拝まないことにしている
という具合である。どうしてこれをスケッチしたかと言うと 今までたくさんの絵描きがここを描いているので 僕も絵を描くのが仕事なので たくさんの絵描きの真似をした訳だ
清は「日本のゴッホ」と呼ばれることもあり、ゴッホの感想を聞かれた際は、
と述べている。ゴッホは生きている間はちっとも絵が売れないので 売れないのは自分の絵がヘタクソだからと思ってがっかりして死んだので 死んでからみんながゴッホが偉いといっても 死んでいるゴッホには聞こえない
清の人柄が感じられて面白いので、出版されている清の日記を読んでみたくなった。
期待していた以上に興味深い展示で、行って良かった。
あまりに良かったので、今回の展示目録も購入した。