火坂雅志による、戦国時代に活躍した人々の業績やあまり注目されない一面などについて語っている作品。
扱われているのは、著者が長編で主人公として描いた施薬院全宗、直江兼続、今井宗久、黒田官兵衛、藤堂高虎、徳川家康、伊達政宗、真田幸村、宮本武蔵らをはじめとして、武田信玄、上杉謙信、織田信長、豊臣秀吉といった有名どころ、そして竹中半兵衛・重門、前田利家・利長・利政、塚原卜伝、沢庵宗彭などとなっている。
武将では上杉謙信が義によって家中をまとめていただけでなく鉱山開発や交易からの収入といった民政にも力を入れていたこと、攻めのイメージが強い信長が不利な局面で停戦という手段を効果的に使ってきたこと、前田利家や竹中重門、山内一豊らがここぞという場面で冷静な判断を下したことなどが印象に残る。
また、今井宗久や千利休のような商人、沢庵や太原雪斎のような僧侶、宮本武蔵や塚原卜伝のような剣豪も扱われている。
武蔵や卜伝についてはあまり小説などで読んだことがなかったが、負けたら死につながる決闘の場面において、強敵にいかにして勝利し生き残ったかという話が面白かった。
著者の目線から書かれた人物像が興味深く、一気に読み進んでいくことができた。
- 著者の作品について書いた記事
- 『武将の言葉 決断力が身に付く180のヒント』
- 『名将名言録 一日一言』
- 『武士の一言』
- 『全宗』
- 『黒衣の宰相』
[本書の文庫版と思われる作品]
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[著者の他の作品]
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火坂雅志による、家康を主人公とした歴史小説の下巻。
上巻では人物描写や設定で入り込めないところもあったが、後半に入ると家康がどんどん成熟していくこともあってか、上巻で書かれた部分が伏線として活きたりして面白くなっていく。
築山殿事件、武田攻め、本能寺の変後の伊賀越え、天正壬午の乱(北条氏などとの旧武田領争奪戦)、小牧・長久手の合戦をはじめとする秀吉との駆け引きなど、後半生の出来事が活き活きと描かれている。
本多正信の策士ぶり、ワタリと縁の深い鳥居元忠の情報収集、側室の阿茶の局によるサポートなど、家康の家来たちによる活躍の他、著者の『臥龍の天』の主人公である伊達政宗や『虎の城』の藤堂高虎なども家康と密接に関わっていく。
上巻で家康に領土を奪われた今川氏真も、お調子者で蹴鞠の名手として権力者に擦り寄るダメぶりを楽しませてくれる。
家康が信長・秀吉の末路を見て権力の恐ろしさを感じるとともに、万民のためにあるべき天下の形を考えながら徐々に成熟していく姿が興味深い。
関ヶ原の合戦シーンは描かずに、天正壬午の乱や小牧・長久手の合戦について多くのページを割いているのもいい。
家康が残した、「大黒の極意」(大黒天は普段頭巾をかぶっているが、いざという時にはかなぐり捨てる)や、「天下は一人の天下にあらず、天下は天下の天下なり」という言葉も終章で紹介されているのが味わい深い。
著者は今年の2月に58歳で逝去されていて、もう次の作品を読むことができないのが残念である。
本書の上巻を読んだ時点では厳しい評価をしてしまったことをお詫びするとともに、ご冥福をお祈り申し上げます。
- 著者の作品について書いた記事
- 『天下 家康伝 上』
- 『常在戦場 家康家臣列伝』
- 『黒衣の宰相』
- 『虎の城 (上)』
- 『虎の城 (下)』
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火坂雅志による、家康の生涯を描いた歴史小説の上巻。
家康を人間臭くも義を重んじてしぶとく生き抜いていく武将として描いていて、三河一向一揆で家臣の半分が離反する中で苦闘するところから話が始まる。
まずは後に家康の腹心となる本多正信が一向一揆軍の参謀として立ちはだかり、次いで今川領侵攻、武田信玄・勝頼父子との戦いと続いていく。
よく知らない作家の作品とすればそこそこ面白かっただろうが、火坂作品としてハードルを上げた状態で読むと、家康や周りの人物にいまひとつ感情移入できなかった。
特に、家康の正室である築山殿や長男の信康についての言動が少々雑な感じがした。
逆に、正信のくせものっぽさや今川氏真のヘタレぶりはなかなか良かったと思う。
これまでに読んだ著者の『黒衣の宰相』や『黄金の華』、『虎の城』などと比較すると、家康の人物像が通説とあまりかけ離れていないのが少し物足りない。
これは主人公が有名すぎて意外性を出す余地が少なく、制約に縛られているためなのだろうと思う。
少し辛く評してしまったが、一定の水準で面白いのは面白いので、さらに面白くなっていくことを期待して下巻も読んでみる。
- 著者の作品について書いた記事
- 『常在戦場 家康家臣列伝』
- 『黒衣の宰相』
- 『黄金の華』
- 『虎の城 (上)』
- 『虎の城 (下)』
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戦国時代に活躍した博多の商人である、島井宗室(徳太夫)の生涯を描いた歴史小説。
没落した練酒商人の息子に生まれた宗室は、朝鮮半島で買い付けた茶道具を日本で販売するビジネスで財を成し、さらに大陸との交易にも積極的に関わるなど、徐々に博多の町で発言力を増していく。
しかし時期は戦国時代真っ只中で、博多は大友と毛利を中心に、龍造寺、島津、筑紫、秋月、立花といった大名たちの係争地となりがちで、何度も戦火で店が焼かれてしまい、戦国大名たちに不信感を増していく。
宗室は当初大友宗麟に近づき、その後信長や秀吉ともつきあうこととなるが、随所で商人としての意地として度胸のよさを見せるシーンが出てくる。
そして秀吉による、民衆に苦しみを与えるのが明白な朝鮮進出計画を阻止すべく積極的に動いていく。
著者の作品にある今井宗久を描いた『覇商の門』が近い感じで、その宗久も登場するので、堺の商人と博多の商人ということで比較するのも面白い。
火坂作品のなかではまずまずというところではないかと思う。
- 著者の作品について書いた記事
- 『覇商の門 (上) 』
- 『覇商の門 (下)』
- 『黄金の華』
- 『全宗』
- 『黒衣の宰相』
[著者の他の作品]
武士の一言 (朝日文庫) | |
火坂雅志 朝日新聞出版 2012-10-05 Amazonで詳しく見るby G-Tools 関連商品 日本剣客伝 戦国篇 (朝日文庫) 日本剣客伝 江戸篇 (朝日文庫) 日本剣客伝 幕末篇 (朝日文庫) 実伝 黒田官兵衛 (角川文庫) 常在戦場 家康家臣列伝 |
火坂雅志による、平安時代から戦国時代にかけての武将や江戸時代の藩主、幕末の志士といった武士たちの名言を解説しているエッセイ集。
大半は武士の名言、そして巻末に雑誌『歴史街道』へ寄稿した記事が付いている。
著者の『武将の言葉 決断力が身に付く180のヒント』や『名将名言録 一日一言』に近い内容だが、これらと比較するとエッセイ寄りの位置となる。
例えば源義経が判官びいきとして英雄として人気があった一方、現代では政治的なことが全く分からない部分に対し人気がないことに触れ、それでも人は学ぶ部分があるのではないかとこだわっている。
また、信長に対しては行う必要のない殺戮を行ったことへの厳しい批判がある一方、上杉謙信や景勝、直江兼続、そして前田慶次郎といった上杉家ゆかりの人物、そして忠度や知盛、敦盛といった美しく滅びていった平家への好意が書かれている。
他にも、著者が大学でマージャン三昧の自堕落な生活を送っていたのが、歴史関連のサークルに入ったことで平家への関心が高まったり、現在の仕事へつながったエピソードが書かれているのも興味深い。
黒田官兵衛が九州征伐の際に石田三成による息子・黒田長政への言動を見てその程度の器だと見切ったエピソードや、板垣退助が民衆の支持を得ることに長けていた話、島津義弘の関ヶ原における粘り強さなど、歴史小説に登場する人物の逸話が面白かった。
近い系統の本は多々あるが、まずまず面白かった方ではないかと思う。