中国文明の歴史を概説したシリーズの第2巻で、中国史上で最も華やかだった時代の1つと思われる春秋・戦国時代を扱っている。
斉の桓公や晋の文公といった覇者、孔子や孫子などの諸子百家、張儀や蘇秦による合従連衡の駆け引きなど、個性豊かな君主や家臣、論客たちの活躍がこの時代の特徴だが、それ以外の社会や経済、産業といった歴史読み物や歴史小説であまり扱われない分野に言及されているところがポイントが高い。
孔子をはじめとする儒教の価値観だと理想の時代だった西周の封建的な秩序が崩れていく嘆かわしい時代ということになるが、西周の理想はフィクションという趣旨のことを語ったり、都市国家だった頃は君主と貴族のみで全てを決められていたのが領域国家になるにつれてその下に士大夫階級が出現して無視できなくなったという見立てが書かれているのが興味深い。
経済や産業については鉄が普及して農具に利用できるようになったことや、治水や灌漑の技術が発達したことで生産高が上がったこと、商業の発達といった社会変化についても書かれていて、これを「矛盾」や「孟母三遷」といったエピソードと組み合わせて解説しているのはうまいと感じた。
この時代を扱っている『春秋左氏伝』や『史記』、『戦国策』などの現代語訳を読んでいて人物のエピソードが面白い一方で時系列についての理解が追いついていないことを自覚しているが、本書では史書によって人物の活躍時期に差があったり、創作と思われるエピソードがあるなどの部分についても考察されている。
特に外交の分野で活躍した張儀と蘇秦の2人の場合、似たような外交をした人々の事跡も彼らがやったこととされたこともあるようで、このあたりは陳舜臣の『中国の歴史(二) 』にも似たことが書かれていたように思う。
中国文明の歴史ということで、この時代の政治史や人物伝、思想書などからこぼれ落ちる部分がフォローされているところがいい部分で、興味深く読むことができた。
- 本書の前作について書いた記事
- 『中国文明の歴史〈1〉中国文化の成立』
- 編者の作品について書いた記事
- 『論語-現代に生きる中国の知恵』
- 『史記列伝〈1〉 (中公クラシックス)』
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