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『教養としての「地政学」入門』:雨読夜話

ここでは、「『教養としての「地政学」入門』」 に関する記事を紹介しています。

出口治明 (著)
日経BP (2021/2/25)


陸の地政学、海の地政学、日本の地政学、マハンとマッキンダーの紹介などが書かれている、地政学の入門書。
地政学はヒトラーに悪用された結果として少し前までイメージが悪かったらしいが、重要でもあることが書かれており、「国は引っ越しできないから」というキーワードが頻繁に出てくる。

陸の地政学ではいかに敵国から挟まれないか、そしていかに敵国を挟み撃ちにするかという観点で歴史上の事例が描かれている。
「敵の敵は味方」方式で、当面の敵を叩くためなら異なる宗派とも、異教徒とも、長年戦ってきたライバルとも手を組んだ事例が書かれていて、ハプスブルク・オーストリア(カトリック)に対するフランス(カトリック)とプロテスタント諸国やフランス(カトリック)とオスマン帝国(ムスリム)、フレグ・ウルスに対するマムルーク朝とジョチ・ウルス(フレグ・ウルスとジョチ・ウルスは兄弟国)などの同盟が面白い。

海の地政学ではシーレーンや制海権をめぐる争いが多く書かれていて、地中海をめぐるギリシア、フェニキア、ローマ、サラセン帝国、イタリア諸都市、オスマン帝国などの戦いや、バルト海や北海、大西洋などをめぐるハンザ、ポルトガル、スペイン、オランダ、イギリス、アメリカなどの覇権争いが書かれている。

ここまでで多く登場するハプスブルク家の話が面白く、結婚で勢力を拡大していった一方で、暗君が多くて名君がほとんど出てこないと語っている。
王室が続くことは非常に重要なことであり、名君を出した王家がしばしば断絶していることを考えると、名君が出ることと王室の寿命には逆相関関係があるのでは?と思ったりもした。
ドイツの諸侯が「大して強くも賢くもなさそう」という理由でハプスブルク家を神聖ローマ皇帝に選んだことも書かれていて、そうした意味では適切な選択だったのかもしれない。

日本の地政学では中国、ロシア、韓国、北朝鮮、台湾と、ほとんどの周辺国と領土問題を抱えていて、アメリカ頼みという不安定な部分を指摘している。
その一方で日本が理論的に同盟を結びうる国はアメリカ・中国・EUの三択で結局アメリカしか選べないことも書かれている。
そして沖縄の基地問題については、日本の他地域に米軍基地を分散することが望ましいのだが当然ながら難しいことを語っている。
そして著者が中国に対して少し厳しさが足りないように見えるのは、学長を務める立命館アジア太平洋大学に(中国のプロパガンダ機関としてアメリカから目をつけられている)孔子学院が付属していることも関係しているのかな?と思ったりもした。

終盤では地政学の代表とされるマハンとマッキンダーの著作の概略を紹介していて、ちょっと難しそうな感じもするものの、関心を持たせてくれる内容が書かれている。

地政学の観点から世界史上の事件や国際関係が分かりやすく解説されており、興味深く読んだ。





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